Rock
        The Smiths / Hatful Of Hollow (1984)
   

 

 その類まれなる美意識によって、空白の80年代、特に英ロック・シーンにとって暗黒と言われた80年代中期に、時代の寵児として君臨したスミス。あまりに内向的な閉鎖性ゆえ、当時のシーンとその象徴であるスミスを葬り去りたいと思っている音楽ファンも多い。一方で、実際のスミスがその内向性を突き詰めた結果、外側に向けて放出される肉体性を獲得し、シーンと一線を画したことを感じるロック・ファンには、未だ孤高の存在であり続けるスミス。

 彼らの美意識が存分に発揮されたのが、ほんの数ヶ月おきの、矢継ぎ早のシングル・リリースであり (しかもそのどれもが文句なく素晴らしいジャケット・ワークだった)、スタイリッシュなスタジオ盤と比べ格段にロック感溢れた、荒々しいライブ演奏に支えられたモリッシーの圧倒的パフォーマンスだった。

 初期5枚のシングルとスタジオ・ライブやTVセッションを収めたこのセカンド・アルバムは、シングル・コンピレーションでありながら、最もスミスの在り方を示したアルバム。シングル曲の良さはもちろん(スミス評価を決定づけた「ウィリアム」や「ヘブン・ノウズ・アイム・ミゼラブル・ナウ」など)、ファースト・アルバム収録曲が別物のような躍動感溢れる曲になって蘇るライブ・テイク、そして文学性に富んだ歌詞の中でもひときわ迫る最終曲「Please,Please, Please Let Me Get What I Want」など、何にもまして楽曲の良さがスミスをスミスたらしめ、孤高の存在にしていたのだということが分るアルバム。

 彼らは次のアルバムで初のチャート・ナンバーワンに輝き、名実ともに英ロック・シーンのトップに上り詰めていく。それが何も生まれなかった停滞と空白の時代と言われた80年代だったことは、彼らにとって幸福だったのか不幸だったのか。いつの時代も聴衆は殉教者を求めている、ということなのだろうか。今聴くとニューウェイブやネオアコースティックの流れを汲みながら、やはり正統的な英国ロック・バンドだったということが分る、時代を超えた一枚。