Tears For Fears / Songs From The Big Chair (1985)
『 Shout! 』 | |
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ティアーズ・フォー・フィアーズのこのアルバムは、もうほんとに大好きで、何度聴いたか分らない。そしていつ聴いてもいい。最初に聴いたとき14歳だった少年は、32歳になってしまった。でもまだ同じものを聴いている。時を越えた何かがあるのだろう。 そのバンド名が示すとおり、彼らのデビュー・アルバムは、非常にナイーヴな面持ちをした、傷つきやすい少年の窒息しかかった叫びのようだった。深く暗澹として、文学性の高い歌詞に、繊細なエレ・ポップが切り口鋭いナイフのように空に浮かんでいた。 しかしこの2作目で、彼らは精神的に、何より音楽面で、大成長を遂げている。 研ぎ澄まされてはいるがどこか頼りなげで儚げだったシンセ・ポップは、よりバンドらしい重さを持った音作りとなり、ギターもドラムも肉感的に、楽曲には躍動感さえ漂っている。ポップでメロディアスな旋律はそのままに、音には厚みが増し、空間的な広がりとともに、確かなビートのリズムが刻まれる。そしてこのアルバムは、大ヒットを記録したのだ。 85年の夏は、まさに彼らのためにあるようだった。その夏、ラジオからこのアルバムの曲が流れない日はなかった。特に3曲目「ルール・ザ・ワールド」は、夏のドライブのためにあるようだった。 (全米・全英1位となったこの曲は、まさに彼らが「アメリカでヒットするようなタイプの曲」と言っていたように、爽やかでベース・ラインの強い曲。だが詩の内容は、ハルマゲドンをイメージしたという『みんな世界を征服したがってる』というもの。非常に彼ららしい) 内向的で傷つきやすかった少年たちが、「叫べ!」とこのアルバムの第一声を発した時から、その内気な世界は外へ外へと開かれていった。深く潜行するしかなかった内面世界から、思考が肉体へと結実していく現実世界へ。彼らの叫びは、高らかな自立への宣言にほかならない。それを外側の世界は支持したのだ。少年の怖れが世界を認知させ、楽曲と世界観と時代が奇跡的に融合した、2度と作りえないだろう稀有の名作。 |