勝手にシンドバッド | ||
今日が晴れることは分っていたので、海に行くことにしていた。果たして、目覚めると快晴だったので、東海道線に揺られて平塚に行った。平塚で降りるのは電車の中で決めた。江ノ島より向こうで、湘南海岸ならどこだってよかった。でも結果から言えば、その駅で降りたのは正解だった。 駅前からは海に近い雰囲気が溢れ、まっすぐ行くだけでよかった。そして、鎌倉や江ノ島とは違う、ずっと波が荒く遠くまで見渡せる激しい海があった。 この辺は波が高く、泳いでいる人は殆どいなかった。代わりにビーチバレーのコートが何面もあった。確か遊泳禁止だったはずだがその看板はなかった。「おと としまでは泳いじゃいけなかったんだ」と帰りがけにふと会話が聞こてえて納得した。 制服姿の高校生のカップルが浜辺を歩いていた。微妙な距離を保って並んで歩いていた。あの頃は、好きなひとにおはようと言われるだけで幸せだった。たいてい、そういう想いは叶わないものだ。風が強かった。水平線はゆるく丸く 見えた。海は曖昧なものなど拒絶するような強さに満ちていた。それが本当の海なのだ。
太陽が隠れたところで海沿いの134号線を歩いた。車で行くと必ず通る、海がよく見える長い橋があった。強風で大変なことになってしまった。しかしここから真下に見下ろす海は素晴らしかった。大波でなにもかも吸い込んでしまいそうなのだ。 渡り終えると茅ヶ崎だった。少し行くと、そう、あの、よく舗装された青い路、浮かび上がるオレンジ色の街路灯、海側の防砂林の緑色、その上の漆黒の空、走り抜ける車の赤いテールランプ、という、自分にとってのこれぞ湘南という風景が広がった。まさに幻想的だ。 暑くなると林の間にある海への入り口から浜辺に出て風に当たった。どの場所でも、もう暗いにもかかわらず、夏の少年少女たちがいた。笑い声が真暗な闇に吸い込まれ、だが不思議な光彩を放つのだった。彼らの微熱は、もう誰にも止められない。 やがてサザン・ビーチに着いた。よく見たら昔来たところだった。サザンにちなんで名前が変わったところだ。そしてその時一緒だったひとも名前が変わった。変わらないのは、きみだけだよ。 駅に着いた。もうすっかり遅い時間だった。電車は夜の中を走った。夏は続いている。変わらないのは、僕だけじゃない。
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