Rock
        David Bowie / Scary Monsters (1980)  
   『 めくるめく現実の世界 』

 

 ボウイ69年のヒット「スペース・オディティ」は、「2001年宇宙の旅」に触発を受け、当時の楽観的なフラワームーブメントに背を向けるべく、「自分はどこにも居場所がない」という強迫観念に満ちた、永遠の名作。

 ここで宇宙を浮遊し続ける、ボウイ美学最初の英雄・トム少佐は、後に、実はただの麻薬中毒者だったということが語られる。

 80年のアルバム「スケアリー・モンスターズ」に収められた「アッシュズ・トゥ・アッシュズ」の中で、彼はこう歌われている。

 「僕たちはトム少佐が麻薬中毒者だと知っています・・」

 11年後の衝撃の告白。あれだけ同時代性を持ち、精神の主柱として、身代わりのように広い宇宙を彷徨い続けているはずだった孤高の世界は、実はジャンキーの垣間見た白昼夢だった・・。

 でも、というか、だからこそ、と言うべきか。その世界はやはり脅迫的に追いつめられ、どこにも居場所のない人間の、一瞬だけ許される研ぎ澄まされた夢の世界なのであり、そして果てしない孤独が終わることのない日常の、めくるめく現実の世界なのだ。