Ben Watt / North Marine Drive (1983)
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アルバム1曲目「オン・ボックス・ヒル」での透明感あるイントロ、それに続く歌い出し、それだけでもう、これから始まるドライブが特別な何かだと予感させる。 ギターの生音とヴォーカルのみのシンプルな構成、クールな質感と文学的な歌詞。醒めた感性とその裏に込められた熱情が、澄んだギターとともに空間に響き、落ち着いた歌声が世界に発せられたとき、海辺への音楽の道は開かれていた。 後にエブリシング・バット・ザ・ガール(EBTG)を結成し、世界的なヒットを出すことになるベン・ワットの、80年代唯一のソロ・アルバム。EBTGではコンポーザーに徹し、ほとんどの曲を合方のトレイシー・ソーンに歌わせていることを思うと、余計に貴重な一枚。このアルバムで聴けるベンの歌声が、ひやりとした感覚を持ちながら、一方で不思議と情熱を感じさせることを思うと、EBTGでももっと歌ってほしい気もするが、その辺はトレイシーへの確かな信頼があるのだろう。二人が公私ともによきパートナーなことを考えれば、それへ至るきっかけともなったアルバムである。 発売当時日本でも大ヒットし、同名のファッション・ブランドまで出来てしまった一枚。しかし一見耳馴染みよく、ナチュラルでアコースティックな肌触りながら、そこに流れる醒めてクールな視線は、甘い感傷など入り込ませない。徹底した音楽へのストイックな眼差しと、そこに見え隠れする揺るぎない思い。いつかこの道が遠くノース・マリンへと辿り着くことを夢見て。ベン・ワットの眼差しは、しっかりと強く、向こうの海を見つめている。 |