念願の、東北ツーリング


東北に行ってきた。
ずっと前から、行きたかったのだ。

###

当初から、2泊で行くことを考えていた。
何せ、片道だけで数百km。一泊では、往復だけで終わってしまう。

我が国では一般に、バイクに好適な季節は、雨も多い。
特に秋は、台風も来るしで荒天が多いので。
春を過ぎた辺りの、好天を狙った。

週間予報と、にらめっこをして。
たまたま、木曜→土曜の予報が良くて、年休の申請書を手に身構えていたのだが。
直前に泊まりの出張を入れやがって。(怒)
急遽、日曜→火曜にずらした。

直前だったが、幸運にも宿も取れて。
無事、決行となった。

出発の時、コースの詳細は決めていなかった。
「行きながら考えよう。」

全く、狙い通り、よく晴れてはくれたのだが。
季節はずれの、エラい暑さには参った…

何回かクルマでは通った道だ。
初めは、そんなに遠いと思ってはいなかった。
でも、実際にバイクで走ってみると、えらく遠く感じた。

ペースが上がらない。
のっけから、体力の衰えを感じる。


###


高速を一つ前のICで降りて、私の母の生家に寄る。

継ぐ人がおらず、今は無人で、家屋だけが残っている。
私が小さい頃、何度か遊びに来て、年上の従兄弟たちに遊んでもらった。
皆、優しかったのを憶えている。

今は誰も見ない山藤が、満開だった。

 

しかし…山藤が満開というこの傍らで、気温が30℃超というのは。どうしたもんか…


###

宿へ向かう。
が、道に迷った。

どうも、手持ちの地図が古くて、実際と違っていたようだ。
刊行年をよく見たら、何と、15年前だった。
「東北へ行こうと思い立ってから、そんなに経ってたんだ…!」
って、ここへ来てから気づくなよなあ。
マヌケやなホンマ…

夕暮れ時に、やっと宿に着き。
近所のファミレスで、飯を食う。

今回は、走るのが目的。
走れさえすれればいい。
だから、地元の旨いものを探して、うろついたりはしない。

幸い、宿のすぐ裏が大型スーパーで。アルコールと朝食を仕入れる。

 

ちょっと多いけどさ。二日分だからね。
真ん中のは、ウイスキーじゃなくて、麦茶だからね!


###

次の日、なか日は、日本海側へ出てみることにした。
本州の背骨を往復して、峠を堪能しようという魂胆だ。

とはいえ、何か目的地がないと、パッとしない。
しばし考慮の末、日本海側にある有名な写真記念館に行こうと、やにわに思い立った。

新しい地図で、ルートを探る。
でも、キッチリは決めない。基本「行ってみて」は、変わらない。

久しぶりの日本海。「背骨」の山は、まだ雪で白く見えていた。
(通ってきた道路には積雪は無かったけど。)

 

海沿いの国道は、幹線道路でもあり。結構混んでいた。

パーキング(チェーン脱着場?)にて。
 

目的地の写真館は、平日のせいもあり、ホントに誰もいなかった。
私の後しばらくして数人・・・程度。

皆、定年後のオッサンばかりだった。(私も大差ないが。)

 

ちょうど、戦後の頃の子供達の写真展をやっていて。
定番メニューでもあり、楽しめた。
中は涼しかったし!

帰りは別のルート、ちょっと裏側の3桁国道に回った。
空いていた。誰もいない。飛ばし放題。

 

止まって、写真とって、飲み物飲んで、一服して。
さて、出発するか〜と、その間、誰も通らない。
当然、お巡りさんも居ないのでね。とても気楽だ。

かつ、風光明媚。
素晴らしい。

 

今日も、一日で数百キロ。これだけ走ると、さすがに疲れる。
宿にたどり着き、かなりグッタリしつつ、床に就いた。


###

次の日、最終日。
南下しつつ、山あいを抜けるルートに入る。
最後の東北の山に、名残を惜しむ。

 

ここも、初めて走った道なのだが。
川沿いを巡るルートで、本当に美しい里の風景が続いていた。

点在する家々の玄関先を繋ぐように、軒先に、小さな川が流れている。
「トトロ」の背景画のように、広々とした、ゆったりした情景だ。

ちょうど、朝の通学の時間帯で。
幼稚園に行く子供と親が、通園バスを待っていて。家の前に出てるのだが。
不意に、でっかい音と共にバイクが現われたので。
子供が驚いて、親にすがりついたり。家の中に逃げ込んだり。
(私のルマンはノーマルだが、音は結構、威圧的。)

私としては、人家が見えるエリアなので、すごーくゆっくり走っていたんだが。
逆効果?だったのかも。(スッ飛ばして、一瞬で居なくなった方が…?)
全くもって、私は、この静寂を乱す悪者なのであった。
スイマセン、すぐ居なくなりますので…

国道を抜けて、JRの駅に出る。
名物の煎餅屋に寄って、土産を買い。
来た道を少し戻って、高速に乗る。

海沿いに抜けて、常磐道から、震災エリアに入る。


###

高速とはいえ、ずっと、片道1車線で。
大型ダンプも多く、我慢ガマンを強いられた。

まあ、私の方もかなり疲れていて、飛ばす気もしなかったので。
ちょうど良かったのだが。

被災地の付近には、道沿いに、線量計が点々とある。

 

私も昔、放射線がらみの仕事をしていたことがあり。少し分かるのだが。
これ、もし数値が大きかったら、「オマエはもう、死んでいる」というのが
わかるだけ、という。

意味あんのかね。(笑)

往路は以降もまだまだ続くが、東北は離れるので割愛する。


###

久しぶりに高速を含む長丁場をこなしたが、状況はいろいろと変わっていた。

高速は、
・路面が良くない。
・合流のたびに、進行方向を指す太っとい矢印が、路面に書いてある。
 (逆走対策らしい。)
・ETCを持たない人は料金がお高い。(排除されてないだけまだマシってか。)
・軽自動車が、100km/h内外で必死に走っている。
・その横を、高級車が余裕で飛ばしているが、数は少ない。
・やっぱりプリウスが多いんだが、何故か皆、妙に飛ばしている。
・バイクでは、ハーレーがいっぱいいたが、皆、あんまり飛ばしてない。
 (最近の型は、そういうセッティングなのかな。)
・ヒマそうなBMW(バイク)やポルシェ(クルマ)なんかが、カモを見つけては
 一瞬だけ飛ばしている。(単独で飛ばす度胸はないらしい。)
・マスツーリングは、あんまりいない。単騎のアメリカンなんかの方が目立つ。
 (地元かも。)
・たまにVoltyなんかが、左車線を辛そうに走っていて。何だか、少し同情する。

一般道は、
・1桁国道(幹線道路)は、それなりに混んでいる。
・トラックが多いが、他県ナンバーも多い。
・他県ナンバーは、小型車と、クラウン/マークII系の大型セダンに2分される。
 両方とも、リタイア後の夫婦なんかが旅しているパターンが多い。
・3桁国道と県道は、誰もいない。たまに地元民が走っているが、年寄りの軽自動車と、
 農作業の軽トラと、営業で走っているプロボックス(一番速い)だけ。追い越し禁止
 ではないので接触時間は短く、お互いに苦にはならない。
・ガソリンスタンドが少ない。タンクが小さいバイクは辛かろう。

総じて、以前より、インフラも、走っている側も、ショボくなったな、と。

片や、私はといえば、
・あまり飛ばす気がしない。高速でも、3桁国道でも、昔-50km/hがせいぜいだったり。
・道が悪いのが辛い。目がついてこない。反応が鈍い。ずいぶんと衰えている。
・疲れが早い。曲げたままの足や膝を筆頭に、腰や首、肩など、満遍なく来る。
 しかも、疲れが抜けるのがまた遅い・・。

昔、私がまだブイブイ走り回っていた頃、一緒に走っていたオジサマが、バイクに乗らない(乗れない)ヤツは体型でわかる、と評していたが。今の私も、そう見えるのかもしれない。

一番ショボくなったのは、私のようだ。


###

東北は、すごかった。

田畑と牧場と村の家々が、織り成す風景。
実際、懐かしい「匂い」がする。
思わず、マスクを外して深呼吸した。

都市部を外れれば、信号なんてめったにない。
存分に走れる。

環境が、全く違う。
近場の山間で喜んでいる場合じゃなかったのだ。

こういう所を、こうやって走るために、このバイクはあったし、
私はそのために、バイクに乗っていた。

来てよかった。
本当にそう思った。

同時に思った。

もうやめよう。
ツーリングなんてやめよう。


###

ルマンは、何も変わっていない。
むしろ、大変に調子が良い。

ロードホールディングの良さ、
コーナーでのマージン、
トラクションのマナー、
ブレーキのタッチ、
・・・

それは、
・この車重(車重でタイヤの面圧が担保されているから、グリップが良い)
・この重量配分(重心が高く前寄りなので、向き変えのマージンが大きい)
・このパワー(開けた瞬間のイッパツの押しと、その後の伸びの両立)
そういった、コイツならではの諸所の特性が、上手い具合にシンクロしているからこそ、発現する特性だ。

だが、もう乗り手の方が、ついて行けない。
重い、速過ぎる、疲れる、・・・

このダイレクトでガンガン行ける感じ、「如意感」が楽しいのに。
乗り手の側が、それを扱うに及ばないとなれば、もう、降りるしかない。

だが、「軽いの」でゆっくり走れば?というのは、残念ながら、成り立たない。
「如意感」がないからだ。

もっとちゃんと言うと、「軽いのの如意感」は、これとは全く別物だからだ。

軽いというのは、「落ち着きがない」ことでもあるから、飛ばすほどに、疲れは増す。
でも、ゆっくり走れば時間がかかるから、こんなに距離は稼げない。
短く刻んで泊数を増やせば、コストは倍々ゲームで増えていく。

ただの移動でよいのなら、例えば軽自動車なんかでもいい。
安楽、安全、時に安価だ。
だが、それこそ話が違ってしまう。

総じて、ルマンのこの「脚の長い如意感」は、望み得ない。

自分が望むものに、手が届かない。
代替物もない。

そう思った時、不思議と、納得した。
「あっ、オレ、もうゴールは過ぎてたんだ。」

私は、遥か後方に、チェッカーを見た。
かつ、「それでもいいか」と、そう感じた。

 

ああ、ありがとう。
長い間、本当にありがとう。


###

費用の内訳を計算してみた。

ガス代 21%
高速代 38%
食費 15%
宿代 18%
土産 7%
雑費 1%

高速代が突出していて、4割近くを占める。
ガス代と合わせれば、6割に上る。
宿代や食事など、人間にかかる費用の方が、よっぽど安いのだ。

これ以外も含めて、バイクに乗る際にかかるコストをトータルで眺めると、
・車検、保険、税金などの「基本料」がかかり
・さらに、上記の「通話料」がかかる
と、そういう仕組みになっている。

ムシられているもんである。

さらにもちょっと試算してみると、もし、高速をメインに距離を稼ごうとした場合、高速代は、車体の値段よりもかかりかねない、と出た。

こちとら、体力も稼ぎも残り少ないご老体だ。それでも、まだ乗り続けようというなら、なるべく近場で楽しめる、小さな「如意感」を探すしか手が無いのだが。上記のように、それは望み薄だとも思っている。

だが、探し続けるのだろう。
まだしばらく、私は、右往左往するのだろう。

願わくば、私に、まだその時間が残されていることを。



ombra April 2017

→ サイトのTOPに戻る

© 2005 Public Road Motorcycle Laboratory