乗鞍スカイライン




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2002年のことだったかと思う。
「もうすぐ通行止めになっちゃいますね・・」
環境に配慮するため(表向きは)、今シーズン限りで、一般車両が通行止めになる、と。

えっ?そうなの?。それまで気にもしていなかったくせに、そう言われると、走っておかねば!という気になる。

しかし、当時の私の住居からは、往復で700kmを越えたように記憶している。結構なロケーションである。
まあ、ちょいと頑張れば、日帰りでも行けなくはない距離だ。(だいぶ強がってるが。)
友人と連れ立って、朝早くに出ばってみた。


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しかしまあ、走れるうちに走っておこう、なんて、誰もが考えるわけで。もう高速を降りた瞬間から、泥を塗り込めたように、べったりと渋滞していた。
路肩もなく道も悪い。すり抜けもままならない。
途中のトンネルがまた長い。排ガスが充満していて、息が詰まる。
どこぞの小僧の400の集合の、カン高いアイドリングが反響してうるさい!。(ォオォオ〜!と唸りっぱなし。)これに比べりゃグッチなんてカワイイもんだ全く。

料金ゲートの前まで、かなり辛かった。
ゲートの前は、またごった返していた。

ここから頂上まで何時間もかかりますよ〜とアナウンスが繰り返し警告する。そのためか、躊躇してうだつく四輪が多かった。べた塗り渋滞の原因は、これだったのだ。


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しかし、意を決して料金払ってゲートをくぐると、不思議なくらい空いていた。暫くは、景色と路面を交互に見ながら登って行く。

高度が高く、霧が濃い。意外と寒い。
路面が悪い。しかしその路面の痛み方は、冬期の雪の凄さを物語っていた。
山の峰を回り込んだのか、高度のせいか、一旦濃くなった霧は、登るに従い、少しずつ晴れて行く。

周囲を見回すと、山林の情景が、徐々に変わって行くのが見えた。

森林が生息できる高度を超えるので、木々が減り、背の低い緑が支配的になって行く。その微妙なバランスの移り変わりは、この高度を走れる、ここ独自のもののようだった。

少ない木々は、しかし痩せ細ろえ、枯れたように生気がない。遠くには、木の根の支えを失った斜面が、所々、崩落しているのも見える。そこだけ縦に細長く土面が露出していて、まるで、爪で引っ掻いた傷跡のようだ。それは、この独自の「微妙なバランス」が、崩れつつあるのを訴えていた。

ああ確かに、ここは私などが走って、排ガスをブリまいてはいけない所なのだ。通行止も仕方ないのかもしれない。この時は、そう思った。


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頂上が近くなると、植物がさらに減り、岩場、砂面が増えて来る。
風景は、かなり殺風景になった。

追い打ちをかけるように、間もなく、渋滞が見えて来た。
これが凄い。本当に全く動かない。駐車しているのかと思った。
諦めてか、ドライバー(かわいそうなパパ)を残し、徒歩で登る人もかなりいた。

登り切ってわかったのだが、この渋滞の原因は、頂上の駐車場が満杯だったからだ。反対方向からも、頂上に向かって車列は続いていた。駐車場から出る車はまばらだ。これは混むわな。

バイク用の駐車場に滑り込み、近くの食堂で腹ごしらえをする。ほとんど客はいなかったし、まだ早い時間だったが、もう閉める時間、と後から来た客は断られていた。我々が最後の客だったようだ。
滑り込みセーフ。

無事、食事を済ませた後、周囲を散策する。
山の写真を撮ったり、ちょっと山歩き等する。
遠くの山を見やると、その山肌に、登山をしている人の列が見えた。
目を凝らすと、どうも年配の方が多いようだった。
ご年配の登山がブームだ、という記事を、そういえば、どこかで読んだように思った。


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さてと。
駐車場を出て、バイクでゆるゆると下る。

折角なので、途中のパーキングでもしばしば止まり、写真など撮りながら風景に見入る。
いつも走りに行っている近隣の峠の、ちょっとやる気のないような自然に比べ、可憐なような、弱い中にも逞しいような、不思議な風景だった。
これがもう、そうそうは見れなくなるのか、と思うと、やはり残念だ。

下りのコースは、登りとは山の反対側に向かって降りて行く感じだ。
風景も、ほぼ往路のリバースである。相変わらず車列びっちりの対向車線を横目に、荒れた路面に気を使いながら、霧に入り、晴れ、そして暖かくなって来た頃には、既に下界に降りている。また、あの嫌なトンネルを抜けて、もとの高速の入り口へと向かった。


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帰りの高速のパーキングで、長めの休憩を取った。
さすがに、ちょっと疲れたようだ。高速、渋滞、高原の峠、さまざまな状況が重なっていた。倦怠の感覚が、乗鞍の印象を覆っていた。

帰りの高速は、不思議な程、印象に残っていない。
(こういう時が一番危ないのだ実は・・!。)

乗鞍の印象をゆっくりと反芻できたのは、帰着してからしばらくして、耳鳴りのように残るヘルメットの風切り音が、薄れたころだったように憶えている。

さすがにこの距離はちょっと辛かったようだ。しかし、天気も良かったし、いつもとは違った、いいツーリングができたと思う。

頑張って出て良かった・・!。

その夜は、床に入ってもしばらくは、身体がバイクに揺られる感覚を訴え続けていた。


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しばし後。
同じ道を、また走った。

といっても、乗鞍へは入れない。素通りして向こう側へ抜けただけだ。
ここを右に折れれば乗鞍だ、というその角で、整理係が一人、一般車両が入らないよう、交通整理に精を出していた。

妙に気に障る、バカみたいなオーバーアクションだった。
その横を、大型の観光バスが何台か、乗鞍へと向かうのが見えた。

今や、乗鞍に入れるのは、黒煙をもうもうと吹きながら登って行く、あの大型バスだけなのである。
そんな光景を目の当たりにすると、この通行止めが「環境保全のためだ」というお題目は、やはり、どうにも、納得しかねる。


ombra 2006年 2月

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