SUZUKI LS650 Savage


当時のカタログより


###

当時、まだ元気な学生だった私が、こんなモデルに惹かれた理由は、今でもよくわからない。
中古屋で見かけた黒と銀の車体が、私に微笑みかけていた。
車体の中央に直立した、力強い単気筒を中心に、シンプルにまとまったスタイリング。
それまで、和製の「アメリカン」といえば、前後方向に妙に寸詰まった、カッコ悪いものと相場が決まっていた。(乗ってみると、安楽で使い易く、存外に良く出来てはいたんだが。)それがこの当時、妙にスタイリッシュになり始めていた。


↑こんなにヤボったかったのが
↓こんなにカッコ良くなったのよ (カタログより引用)



レプリカからゼファーに至るメインストリームに対して、SRX等のシングルスポーツや、イントルーダーやスティードなどのスタイリッシュなアメリカンなどの流れが、サブカルチャーでもあるかのように息づいていた時代だ。
サベージも、そんな位置づけができるかと思う。

「そういえばオレ、アメリカンには乗ったことなかったなあ。」

妙に安かったこともあり(650ccの中古なんていうキワモノの由)、ふらふらと購入に至った。


###

乗ってみて意外だったのは、これが、コーナーが面白いのだ。
守備範囲は、交差点に毛が生えたような、低速コーナーである。

基本的に、前輪はほとんど何もしない。エンジンのレスポンスでもって、後輪からインに押し込んで行く感覚がベースだ。(前輪の切れ込みは結構大きい。この辺の雑なお動きは、本家?ハーレーの自然な感じに全然かなわない。)

650cc単気筒はトルクフル。CVキャブで扱いもラクだ。レスポンスは強烈だが、スイングアームが長くベルトドライブなので、強めのトラクションを穏やかにコントロールできる。

シートは猛烈に低くて、尻は後輪にごく近い。サスペンションストロークも小さいので、リア接地面の微妙な感覚が、尻にもろに伝わって来る。乗り心地は良くないが、路面情報が的確なので、荷重コントロールはかえってやり易い。

フラットバーモデルでは、握り手はステアリングヘッドの直ぐ傍だ。安定の良いフロント周りの挙動を、常に手元に感じられて、あらゆるシチュエーションで安心感が高い。

全てが低く、挙動は穏やかで操作性に優れる。スライド特性も良好だ。

少し速めのアベレージで、コーナーに入りつつ車体を倒し込み、向きが変わった所、コーナーの出口が見えるタイミングでアクセルをON、出口に向かってガン!とぶっ飛んで行く。

これが雨だったりすると、大カウンター大会となる。

きゃー。
本当に楽しい。(笑)

多分、私は、設計者の意図とは全く別の所で、遊んでいたのではないかと思う。


###

冷静に見てみると、この走りの素性は、偶然の所産ではない。
しっかりと理由がある。

キャスターが寝ているので、前輪は切れ込みの反応は速い。
しかし荷重はかからないので、進路を指差すだけ、といった感じで、ほとんど仕事はしてくれない。
車体は、剛性はそれなりだが、軽くてスリムで、低くて小さい。
(乾燥重量160kg。スティードは200kg前後。)

エンジンは馬力はないが、トルクフルでパワーバンドが広く、レスポンスが良く扱い易い。

低いロール軸。後輪の直上に座るかのような着座点。
ダイレクトでコントローラブルなトラクションの感覚。

そのライディングフィールは、むりくり例えて言うと、イギリスの古い小型オープンスポーツカーに似ているのではないかと思う。

これが、日常域で、滅法面白い。
もう、いつもの通学路が、楽しくてしょうがなくなった。


###

そんな次第で、もう毎日がいいことずくめ〜。
というほど、世の中甘くない。
悪い面ももたくさんあった。

特に、とにかく速度域が低いのには閉口した。
650ccもあるくせに、なんと30馬力しかない。
全体的に、低速でのレスポンスを優先した造りだ。とはいえ、あまりと言えばあまりの仕打ち。実際、当時、一緒に並べていたDT125の方が、(スペック馬力は少ないのだが)最高速はよっぽど速かった。片側2車線の一般道でも、ちょっと流れが速くなると、ついて行くのに苦労するほど遅いのだ。

これには参った。あまり足を延ばす気がしない。 一応、大排気量車なのに。近所のアシにしかならない。

また、とにかく車高が低く、後ろから見ると、原付き並に小さく見える。そのせいか?、オツムの程度の低い4輪に、嫌がらせ受けることがままあった。

そんなこんなで、車検の時期に、考え込んだ末、手放してしまった。(捨て値だった。)

まあ、これが、私にとって初めての「アメリカン体験」であったわけだが、作りようによっては、従前の一般論からハミ出た所で、意外な展開がありえそうな、面白いカテゴリーだな、というような感想は持った。

スムーズで速く、静かでスタイリッシュ、軽くて使い勝手も良い、公道スペシャルなスポーツアメリカン、なんてのがあったら、面白いと思いません?。(思わないか…。)


###

さて。
バイク乗りの「病気」にも幾つかあると思うのだが。
私の慢性病は、二つある。

「2スト乗りたい病」

「シングル乗りたい病」

2ストの方は年を経るに従い発作が減って来た。
(供給が止まってしまったこともある。)

シングルの方は、あまり衰える気配がなかった。実際に手を出してしまうことも幾度かあったが、これというインパクトを持ったシングルモデルには出会えなかった。

そうこうするうち、発作は「サベージ乗りたい病」に先鋭化して来た。症状は悪化の一途、あまり予後が良くなかったので、仕方なく?中古を探してみた。もう販売中止になって随分経っていたし、650ccのアメリカンなんて、何しろレアだ。タマがない。

しかし、時代は、ネット情報網が整備されてきた時期でもあった。これには助けられた。
何と、サベージを専門に扱っている、という店を見つけた。
実車を見に行った。

「久しぶりだな。」(微笑)

実車を前にすると、昔、現実に、こいつと走っていた、その記憶が、リアルに蘇って来るものだ。舞い上がっていたのが、多少、冷静になる。確かに、手放したのにも訳があった。そんなこんなを思い出す。思い出しながら、その後もしばらく、うつらうつらと考えつつ、過ごしていた。


###

その後、数年を経て(ゆっくりしてんですよワタシ)結局、再購入に至った。

いくつか理由がある。

まず、「個体差」を見てみたかったこと。
同じバイクを何台も乗ることってないでしょ、普通。
個体差というのが、どの程度感じられるものか、試してみたかったこと。

次に、「時間差」を見てみたかったこと。
乗り手の側の「時間差」、つまり、若い頃と今とで、感じ方にどのような差が出るものなのか、試してみたかったのだ。

バイクの「時間差」は、あまり気にしていなかった。件の店には、10万kmを走破した強者もいた。耐久性は悪くないようだ。(造りが上等とか頑丈とか言うことではなく、シゴかれる車種ではない、というだけなのだが。)また、既に旧車の部類なので、納車の際には、レストアのような作業もしてくれる、とのことだった。


###

実際に乗ってみると。
ほとんど、昔の感覚、そのままだった。

まあ、乗っているのがオジさんのワタクシなので、そうそう無理はしないものだ。しかし、ただ流していても、あの「猛烈にダイレクトな日常感」は健在だった。

その辺をトコトコ走っているだけで、妙に楽しく、和む。何のことはない、私が欲しかったのは、この「お散歩感覚」だったのかもしれない。

しかし、コーナーでのキレは、以前ほどは感じられなかった。リアもめったにスライドしない。思うにこれは、ライダーの体重が増えたことで、タイヤの面圧が上がっただけ、のようだった。(号泣)
逆に、アベレージスピードは、前ほど「遅い」とは感じなくなった。これは個体差のせいかもしれない。エンジンは、以前よりもスムーズに、高回転まで回り込む感じ。制限速度プラス程度までなら、不満なく使えている。(私が、大径ボア車の振動に慣れてしまっただけ、かもしれないが。)

そのせいかわからないが、四輪に嫌がらせをされることも、ほとんどなくなった。(私の運転が、若い頃より荒っぽくなっただけ、かもしれないが。)


###

もう一つ、面白いことに気が付いた。

MOTO GUZZI のルマンあたりで高速を走っていると、真ん中車線でぶっ飛ばしているクルマに追い付きつつ「遅せえな」の一言も出ようか、というペースで走ってしまうのものなのだが、サベージでは、一番左の車線でクルマにホイホイ抜かれながら、さして気にもせず、楽しく走れてしまうのだ。

これは新鮮だった。
バイクによって、こうも感覚が変わるものか。

見方を逆にすると、ルマンの時の感覚と言うのは、実は私がエライわけでもなんでもない。ただバイクが速いだけ、とそういうことだ。

ルマンだけしか乗っていなければ、案外、気が付かなかったかもしれない。
「ワタシは飛ばす人なのだ」のような感覚で、ずっといたのかもしれない。

そう気付いてから、改めて周りを見回してみると、この「乗らされている」感覚の例が、随分多いように思えて来る。

「乗り物の高性能を、自己のものとして陶酔する面々」
四輪でも、高性能車に乗りたがるお方々は、この手の連中がほとんどのように思える。いや、高級車自体、そのために存在するとも言えるだろう。虎の威を借る何とか、とは少し外した例えかもしれないが、しかしいい大人が、かなり滑稽な光景ではある。

私はと言えば、そういう連中を、横からほほえましく眺める、精神的余裕ができて来た。高性能車がもたらしてくれる優越感など必要ない。そういう余裕ができたのだ。

サベージで楽しいだけでなく、ルマンでも、走りに余裕が出て来たように思う。
(うそ。やはりルマンではついブッ飛ばし過ぎ、後でちょっと後悔します。苦笑)


###

例えば。
ツーリングに出て、高速が渋滞していたら。

飛ばせなくてイライラする、のではなくて、もう途中で高速なんかは降りてしまって、並行する国道をゆったり、景色を眺めながらコトコト進む。

そんな自由な走りのスタイルが取れるのは、バイクの性格もあるのだが、どちらかというと、人間の側の感性の方が影響が大きいのではないかと思う。

とろんとしたバイクは許せない、いつもカッ飛んでいたい、そう思ってしまうのは、もう性格の問題だ。いいワルイの問題ではない。ただ、それに縛られることもある、ということだ。緩いが故に放たれることもあるし、性能が低いが故に、出てくる可能性もある。

サベージは遅い。ガマンならないこともままある。これは多分、人によっては、もう許せない類のバイクではないか、と思う。

サベージは、あなたを、人より優位には置いてくれない。

はい。
それが何か?。

いえ、別に。

「自由」とは、自らに由る、と書く。 他人との比較に依っているうちは、「自由」ではないのだ。

サベージはあなたを、思うままに、思う所へ、コトコトと連れて行ってくれる。
私の感性の方が、やっとサベージに追い付いて来たのか、とも感じる。
今度は、じっくりと、長い付き合いを望みたい。


###

などとノホホンとしている間に。
車検が来ちまいました。

距離を数えると、年平均、1000kmくらいしか走ってない。
これで10万km達成しようとすると?・・・100年かかりまさあね。
じっくり、もいいのだが、もう少し、急いだ方がいいかも
知れない。(苦笑)



###

最後に。

大メーカーSUZUKI 殿。

サベージは、実はまだ生産・輸出していて、現役モデル、なんですね?。
(北米では、入門車種として定着している、んですか?。)
なのに、パーツがプレミアついてどんどん高くなるのは、ちょっと、ご無体じゃありませんか。
それよりも、生産してるんだから、受注でも何でも、国内市場に新車を出していただきたい。
昔より大型バイクの免許も取り易くなったし、若い人は、さほどブームになびかない現実派も増えている。こんな、スタイリッシュで値段も安い、地道な支持を得そうな車種は、意外と売れ続けるかもしれませんぜ。

女の子にも人気があるんですよ。軽くて低いから。 サベージを乗りこなす女の子なんか、スゴイかっこいいじゃナイスか。

SRの500をやめちゃったYさんなんかより、実直でいいイメージになること間違いなし!。

そして。
もし、「次」を造る機会があるなら。

もう少しメンテナンス性を考えた、まっとうな設計にしてくださいな。
(所詮、「スタイルありき」なんだコイツは。全く・・。)


ombra 2006年 2月

→ サイトのTOPに戻る

© 2005 Public Road Motorcycle Laboratory