SUZUKI RF900(GT73E)のインプレ


0.はじめに

私の車歴で初の新車。車名はスズキRF900。1995年の秋に購入して、2001年冬にTDM850の下取り車として売却した。
どういう基準でRFを選んだか。それは長距離ツーリングに使え、故障が少なく、適度にスポーティというものだった。当時から今まで、基準そのものは変わらないが、まだ当時はバイクの選び方を良く理解しておらず、なんとなく見かけと数値、メーカーの宣伝文句で選んだ。納車されてびっくりした。ちょっとスポーティすぎたかな?長距離ツーリングに使えるのかな?一抹の不安を覚えたが、そこは若さと柔軟性をもって楽しむことができた。結局上記のように売却してしまったが、バイクの選び方を理解するにあたっては、大きな持ち駒になったことは間違いないと思う。その結果、現在ではヤマハTDM900を愛車としている。TDMは自分の考えるツーリングバイクの基準に対して、近い位置にあると思う。
私の理想とするバイクであるツーリングバイクと対極にあるスポーツバイクを知ることで、そのイメージをより明確にできるからだ。今のオートバイライフの充実にはRFという車歴は確実に反映されていると自信を持って言える。そこで以下にRF900について自分の考えを示してみることにしよう。


1.RFの駆け抜けた時代

スズキが1994年に発売し、2000年過ぎまで販売していたRFシリーズはどんなバイクだったのだろうか。排気量別違いで400、600、900と3種類が発売され、日本国内では400と900が(国内仕様として)正規販売されていた。もちろん600も逆輸入車として販売されており、900も同様だ。当時の為替相場は1ドルが80円を切るところまで円高が進んでおり、RFのみならず逆車の車両価格は国内販売のそれよりも下回っていることが普通であった。その影響であろうか、900も逆車の方を多く見かけた覚えがある。
当時は1980年代後半から始まり、1990年のカワサキゼファー発売頃まで続いた、いわゆるレーサーレプリカ全盛期が一段落して(それでもNSRやVFRなどのモデルは元気であった)、普通のオートバイというイメージのネイキッド(カウルを装備していないということからハダカということか?)バイクが勢力を拡大していた。まさに今までと「風向き」が変わって、西風が吹いたなんて評する方もいたと記憶している。そのような背景の中で、「逆風」に向って走ったバイクの内の一台がRFというわけだ。
なぜ「逆風」か。RFシリーズはエッジの効いたフロントアッパカウル、フェラーリのクオータパネルにあるような空気導入フィン、エイを題材としたシートカウル、特徴のある横長のストップランプといったように、外観は特徴があるので遠くからでもすぐにそれと識別ができる。つまり、思いっきりのフルカウルをまとったバイクであったのだ。尚、エイはSTINGRAYと英語で言うが、これはサブネームとして使われていたとかいないとか。同社現行4輪モデルでワゴンRの1バージョンとしてこの名前が使用されていることも付け加えておこう。
日本国内での販売の方も逆風のために苦戦したようだ。国内仕様GT73E型を例にとってみよう。いつだったか、私の所属するRFオーナーズクラブ、メーリングリストでの出来事。型式ごとのフレーム番号調査というものがあった。参加者が自分の車両のフレーム番号を示し、取りまとめの方が随時並び替えて結果を発表するというものであった。当方も調査に参加したことは言うまでもないが、その結果、下3桁が500番台の前半で終わっていることが判明した。つまり、この型は大体500台くらいしか売れていなかったということだ。
また、こんなこともあった。1998年の鈴鹿8時間耐久レースでの出来事。イベントとして、オーナーズクラブのパレードということで、国際レーシングコースにおいて手を振りながら1周した。この際、我らがRFクラブの横に陣取っていたアフリカツインのクラブに台数で負けていた。アフリカツインはRFよりも販売期間が長いから当たり前であろうが、ショックであったことをここで告白しておこう。


2.RFの外観

長々と余談を書いてしまった。いよいよRFの本質に迫ろう。
RFはスポーツバイクである。こう言うと反論もあろうが、やはりスポーツバイクである。あえて言えばスポーツツーリングバイクである。そう言える大きな理由の一つには戦闘的乗車姿勢がある。つまり、トップブリッジよりは上に取り付けてあるが垂れ角の大きなハンドル、やや後方にあり、エンジンのクランク軸のちょっと下から後方に延長したライン上にあるなかなか高めのステップ、かなりしり上がりのリアシート、ひょっとしたら現行のGSXーR1000にも負けないくらいスポーティではなかろうか?(言い過ぎ?)次に足回りのセッテイングだ。高い速度を想定した高い荷重域に合わせてあるようだ。スプリングの初期荷重はかなり掛かっているし、減衰力も効いている。200km/h以上でも鼻歌交じりで走れそうだ。ブレーキにしても良く効くことはよいのだが、コントロールする幅が狭く、やや神経を使う。フレームも鉄製プレス成型ながら非常に剛性の高いツインスパー方式を採用している。ところが、発売元のスズキはツーリングバイクだとしていた。ステップには振動吸収用の柔らかいゴムが採用されているし、タンク容量も21Lと大きい。ハンドルのトップブリッジにも振動吸収用のゴムが入っている。シートもやや厚めのものを採用している。エンジンはフラットトルク型なことは良いが、ギア比は高めでワイド、荷掛けフックも装備していたが、前述のエイをイメージしたシートカウルは大きく横に張り出しており、荷物を積むには使い勝手がイマイチであった。今考えると結構チグハグなバイクだった。


3.乗車姿勢

乗車姿勢をもう少し掘り下げて考えてみよう。これは疲労しやすいものであった。もっとも、購入当時は21歳であったから気にもならなかったが、TDMに乗り換え時は27歳目前であり、体力的な衰えが顕著になりはじめていたので、乗ることが辛かったことを思い出す。その原因たるや、どうもステップが高すぎ、ハンドルの垂れ角が大きすぎたと思う。よくハンドルが低いからつかれるんじゃあない?と言われたが、疲れるのは腰と足、次に背中、肩という順番であった。つまり、ステップが高いので、足を大きく曲げて乗車する。よって、足腰が疲れるということなのだ。さらに腰高なシートが肩、背中に効いてくる。これに前述の垂れ角の大きいハンドルが肩、背中に追い討ちをかける。ハンドルは疲れる要因の付加的なものであろう。この事実はRFのみならず、全ての二輪車に言えることと思う。疲れない乗車姿勢の代表格としてオフ車がある。上半身を直立させて一本の平坦なパイプハンドルを持ち、前方のやや下側にあるステップに足を乗せる。オン、オフ両方のバイクに乗ったことがある方ならば容易に理解できると思う。余談ではあるが、ホンダの本格的ビックボアツインとして好評を博していたVTRー1000Fの後期型はハンドルの垂れ角を少なくしている。VTRーSPと区別するために疲労度合いの少ないツーリングバイクに方向を向けた好例ではないだろうか。


4.走り

RFでの累積走行距離は42000kmだ。多いか少ないかは各人の判断にまかせるとして、これには当時住んでいた徳島県と地元愛知県を幾度と無く往復した距離がそれなりに含まれている。学生という金の無い身分であったが、大阪・神戸等の渋滞を避けるために有料道を主に用いていた。ここでは水を得た魚であった。先に記したようにスポーツバイクRFは大きなフルカウルを装着しており、超前輪荷重の重量配分、高いフレーム剛性、扁平で太いZR規格ラジアルタイヤ、初期荷重の掛かったサスペンション、これらがもたらすハイスピードでの直進安定性、コーナリング性能、絶品だった。乗車姿勢もスピードが高い場合は丁度いい塩梅に思える。
付随価値として、突然の雨でもあまり濡れないことがある。このフルカウルは本当に良くできていた。ここではツーリングバイクとしての実力も垣間見せる。憎い奴だ。しかし、高速道を降りると信号待ちからの発進、停止が億劫になってくる。ポジションもそうだが、クラッチレバーの操作がやたらと重い。渋滞路なんてハンドグリップで握力を鍛えているようだ。硬い足は街乗りスピードでは突き上げが気になる。おまけにハンドルの切れ角が日本車としてはちょっと少ない。Uターンがやりにくい。手元の資料では30度と記載されている。TDMは35度、ハイスピードツアラーの雄、カワサキZZR1100では40度近くはあると思われる。エンジンが扱い易かったことが唯一の救いか。エンストとは無鉛ガソリンであった。停止もやや唐突な効きかたをするブレーキで、神経を遣った。ブレーキキャリパーはニッシン工業製の4ポットキャリバを採用しており、効きそのものは申し分なかったが、もう少しコントロール性を重視しても良かったと思う。
山のワインディングへ出かけることも多かったのだが、前述のようにエンジンは下から十分なトルクを発生しており、非常に扱いやすい。出力特性曲線によると8.7kgの最高トルクを発生するエンジンだが、3000rpmにして既にほぼ8kgを発生しているようだ。恐るべしフラットトルク。ただ、例の尻上がりのシート、大きなフロント荷重、さらに意外に高い位置にある重心も相まってコーナリングはかなりシビアだ。極端に言えばフロントタイヤを中心にリアタイヤを振り回すイメージだ。下りコーナーでのブレーキングでは、体が前方にずり下がってきてかなり苦戦した。どうも自分の感覚よりも先にバイク自らが曲がろうするように感じ、怖いのだ。私などはやはり、リアステアのバイクの方が安心できる。しかし、腕に覚えのある方ならば相当面白いマシンになり得るだろう。
トルクで引っ張り、ギリギリまでブレーキを我慢、高い重心を利用して思い切って寝かせ、再びトルクを使って、リアをスライド気味に立ち上がるなんて芸当も可能ではあったろう。やはりバリバリのスポーツバイクだ。


5.メンテナンス

スポーツ性とは関係ないが、メンテナンス性は市販バイクには重要な事項だ。もっとも国産車ではエンジンオイル交換、サスペンションオイル交換、エアフィルタ交換、プラグ交換、時々タイヤ交換、チェーン交換、各ベアリングの注油くらいしておけばかなり調子はよい。RFはやや煩雑な感じであった。オイル交換はカウルを外す必要はない。それは下側までエンジンを覆っていないからだ。プラグ交換はタンクを外せば問題なく交換できる。今時のバイクとしては普通だろう。何が煩雑か。その前にその煩雑さを引き起こす原因だが、大きな前輪荷重だと思われる。まずタイヤだ。後輪は15000km程持つが、前輪は10000km位で終わってしまう。前輪3本に対して後輪2本の計算だ。自明のことだが、だいたい同じタイミングで交換が望ましいのは言うまでもない。次にステアリングステムベアリングだ。これは一概に荷重分布が原因と言えないかもしれないが、実は2回交換している。どうも距離を伸ばすとハンドルが取られるような感じがする。調べてみるとステアリングステムベアリングのレースに打痕がついている。交換となるわけだ。そうなると、フロントフォークのオイル劣化もやや早かっただろうか。TDMでは自分で交換しているが、RFはダンパーがフォークの内部で別体となっており、エア抜きには工具が必要だ。当然持っていなかった。
また、ツーリングバイクに必須とも言えるセンタースタンドが装備されていなかった。代用品を用いれば案外簡単に対処できていたと今は思えるが、当時はそこまでの知識が無かった。リアサスのリンクとスイングアームピボットのベアリング注油は、結局リアサスオーバーホール時に店に依頼した。リアサス自体は35000km程使用してもさほど性能は落ちていなかったのでよいが、ベアリングの方は錆が出ていたと後日報告があった。そういういえばなんか動きがイマイチで、ギコギコ音が出ていた。
尚、フルカウルは立ちゴケには配慮がなされていた。というのも、あのフィンの部分はが最初に地面に当たるわけだが、実はフィンは脱着式であり、交換が容易だったのだ。私は一度だけ立ちゴケしたことがある。その際、ご多分に漏れずフィンが傷ついた。磨いて色を塗っておいたらほぼわからないようになったと付け加えておこう。


6.まとめ

いろいろとRFのことについて考えてみたが、何か気に入らない点ばかりが出てきてしまった。おかしいなぁ、乗っている当時はもっと気に入っていたはずだが。時間の経過と自分の車歴が混ざって、より明確なツーリングバイク像が私の中で出来上がってきているためだろうか。けっしてRFを気に入っていなかったわけではなかった。最後はポジションが合わないという理由で手放してしてしまったのであるが、総じて65から70点位はつけられるバイクであったと思う。なぜこんなインプレになるのだろうか。
ところで、RFについて文章化したことであるし、私の考えるベストツーリングバイクを今一度述べてみよう。まずバーハンドル装備で、センタースタンドはメンテナンスの自作業比率向上のためには外せない。エンジンは4気筒よりも2気筒が望ましい。幅が細くなり、一体感が向上すると思われるからだ。極低速のトルクと高回転の伸びは4気筒に劣るが、実用域ではアクセルを開けやすい。トラクション性能が高いからだ。
フレームに関して、材質は問わないが、どうやらダブルクレードル式が適度に剛性があり、よさそうだ。フォークも正立のほうが、バイクの状態を知りやすい。また、重量配分は50:50に近い方がよいだろう。タイヤの減り、足回りの負担均一化に有効と思われるし、リアから旋回する感覚の方が運転技術の未熟な者にはやさしいからだ。ステップは前過ぎず、後ろ過ぎず、やや低めが良い。そして、サスペンションは少しだけ硬めで、減衰力はやや効きが強いものが良い。公道では路面変化が激しいので、硬すぎるものは危ない。しかし柔らかいものではスポーツ性が損なわれる。もちろんリアサスはオーバーホールできる構造であって欲しい。積載性も良くなければならないだろう。そう、キャンプツーリングができるくらいの荷物は積めて欲しい。
ブレーキは効きが良いほうが絶対に良い、プラスコントロール幅が広い方が良い。どんな路面が待っているかわからない公道でカッツンブレーキは危険すぎる。握りこむにつれて正比例的に効力が立ち上がるブレーキが理想だ。
こうして考えると、長く乗れる=飽きのこないバイクが私の求めるベストツーリングバイクということになるようだ。それは少し醤油の風味がする、野菜の味がわかる煮物、かつを風味が強すぎず、しかしだしの味がする味噌汁というところだろうか。適度に主張してきて、いつまでも、どこまでも一緒に走りたくなる、手入れもできるだけ自分でできる、そんなバイクが私の理想のバイクだと改めて思うのであった。



Flying Note  2007年 11月

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