バイク屋という商売


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私のような妙齢のおっさん(笑)が国産バイク屋を覗くと、やはり扱い難い客なのか?接客マニュアルに無いのか?いろいろな対応に遭うものだ。(完ムシとかね。)

しかし、よく観察すると、共通項もある。
とにかく、いいかげんなのだ。
顧客の要望に応えよう、という姿勢がまるで無いことに、驚かされることがままある。


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英語で「翼」と大書きしてある、個人商店。

店先には小型スクーターが並んでいる。流行りの大型スクーターがちょぼちょぼ。スポーツモデルは、一番の売れ線が一台だけ。

店のオヤジを捕まえて訊いてみる。
中〜大型の、スポーツっぽいモデルないですか。ツーリングもするし、足にも使いたいんだけど。(要するに、普通の「公道バイク」を翻訳してるつもり。)

店のオヤジは、総合カタログの中の、小さな写真を指差して言う。
「これですねぇ・・」
もう何十年も変わっていないような見栄えの、ノンカウル4気筒。
「これしかないです。」

オヤジの背後には、アメリカンやVツインのポスターが、所狭しと貼ってある。
そんなにあるじゃん、という指摘に、オヤジは驚くべき弁明をした。

「京都議定書のあおりでね、メーカーは生産台数を絞ってるんですよ。だからモデル数も少なくなっちゃった。」

その後もいろいろ話してわかってきたのだが、要するに、仕入がラクなものしか売りたくない、ということらしかった。

在庫があるからこれを売れ、のような、メーカーの圧力もあろうとは思うのだが。
それにしても、京都議定書はふるっていた。(後で裏を取ったが。完全なウソだった。)

仕方ないのかもしれない。バイク屋が売るものというのは、メーカーが一方的に作ったラインナップである。それが間違っていようが何だろうが、売らなければ食えない。そういう構造なのだ。

だから、流行りのもの、いま店頭に並んでいるもの、を喜んで買って行くのがいい客であって、それを適当にあしらって、商売につなげれば良いのだ。

それ以外の、細かい客は相手にしてもしょうがない。
このやり方で、バブル崩壊も何とか切り抜けて来た・・。

そんな商売、面白いのか、とグチのひとつも言いたくなるが。
売らない、と言われれば仕方ない。買わないまでだ。

まあこれでは、跡継ぎも居まい。


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次は、もう少し大きな店。
店舗は二階建て。逆輸入なんかも置いてある。

あの〜。中〜大型の、スポーツっぽいモデルないですか。足にも使いたいんだけど。なんかいいのあります?。

「これがいいですよ!」
おおこれか!。
あの、えらい尖がった、と評判も喧しい、ハイパースポーツの、逆輸入フルパワー版!。

・・・何も知らんと思ってホンマに。
このオッさんに、これ乗れってか?。

「いや、中年の方でも、買われた方は結構、喜んで乗ってらっしゃいますよ〜!。」

何人か客を殺しているんじゃなかろうか、このバイク屋は。


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チェーン展開している大規模量販店。

あの〜。中〜大型の、スポーツっぽい<以下同文>。

「これなど、いかがですか?。」
すごい。見た目に反っている。フレームひん曲がっているのが一目瞭然!。
「程度はいい方だと思いますよ〜」
・・・良くねぇよ。(怒)

「端末で、全国の在庫を調べてみましょうか。」
何台か紹介してくれたのだが、どれもが妙に高い。

この店はいつもそうだ。

時々、広告を見るのだが、いつも多少の値引きをした、型遅れ新車の情報ばかり。あんなに持っている中古車の情報は、外には一切出さない。

店にある中古情報の端末は、いつも向こうを向いている。店員が言うよりは、かなり安い値段が表示されているのではないか、と私は勘ぐっている。そこで儲けを出すのが、店員のウデ(評価)とかね。

ふと話題を変えて、試しに、前から気になっていたBimotaの中古の値段を聞いてみた。目の玉が飛び出して、目から鱗がボロボロと落ちた。
(たくさん付いてたらしい。笑)

しかしもっとよく聞いてみたら、実は、在庫はないそうだ。
在庫がないのに値段が出る。 ますますもって、不思議な端末である。


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外車も並売している老舗、の中古車部門。
対応してくれたのは、若い雇われ店長である。
よくしゃべる男だ。

調子に乗せてしゃべらせると、話がグチっぽくなってくる。
「もう最近の若い子は値切るばかりで・・。」

昔、名車と呼ばれた車種が話題に上った。店にあるその個体は、しかし、状態はひどく悪かった。

「しっかり整備してお渡しします。」

それにしても高かった。名車だから?値引きにも一切応じなかった。
(ってオレも値切ってんだけどね。笑)

それから、さほど経ない後日。
全く別の場所で、この「名車」この時の個体そのものに、偶然、再会した。

オーナーは「若い子」だった。
バイクの状態は、相変わらず悪かった。
とりあえず動きはするのだが、整備はろくにされていなかった。
むしろ「危険」と言っていい状態。

「しっかり整備」が聞いて呆れる。
これで、あの値段。
全く商売とは言えない。詐欺だ。

若店長さんよ、そこでずっと、値切られ続けてればいい。
だってキミには、それしかできないんだから。
老舗の看板も、これではね。


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バイク屋だからといって、特別なサービスを要求したい訳ではない。しかし、「世間一般の商習慣」レベルからは、ずいぶん離れている、緩すぎる、場合があまりに多い。常日頃、仕事で「世間一般の商習慣」に揉まれている一般サラリーマンには、耐えがたい事態がそこここにある。

笑い話では済まない。バイクの場合、商品の程度は直接、命に関わりかねないのだ。

二人乗り解禁や大量定年や何やらで、従前とは異なる商機もあるだろうに。
これから先、何らかの変化があるとして、それが願わしいものになることを望みたい。

そして大人のライダー諸氏には、身に付けた商習慣に照らして、しっかりと店を選ぶよう、提言しておきたい。


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無論、よい店もたくさんある。

カタログと端末を引っくり返して、ホントに親身になって探してくれた、若い店員さん。

「あの直線は昔、良く取り締まりが出たんすが、私が捕まった時に裁判起こしてモメてから、出なくなったんすわ〜!」と笑う、豪快な店員さん。

次はアナタのところで買うからね。
待っててね〜。(笑)


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昔、若いのころに、世話になっていた店。
バイクメーカーを退社した、若い二人がおこした、小さな店だった。

「最近は、若い子があまり乗らなくなった。だから、来てくれる子たちには、バイクの楽しみをわかってほしい。」

「若いんだから、イメージ先行は仕方ない。例えばSRあたりに乗っていても、エンジンすらロクにかけられなかったりする。そういう時はその子の性格を見て、賢そうなタイプなら理屈から教えるし、元気がいいタイプなら、いっぺんバカにするとかして自尊心に火を付けておいてから、身体で覚えるように仕向ける。教えればちゃんとできるようになるし、できれば楽しくもなる。そういう細かいフォローはしているつもり。」

やるねえ。
応援のしがいがある店だった。

できれば、こんな店に世話になりたいと思うのだが、近頃、このメーカーのラインナップがパッとしないせいもあって、すっかりご無沙汰となっている。残念には思っているが、私なんぞが行かなくても、この店なら大丈夫だろう。


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もっと昔、ずいぶん以前、学生の頃に、世話になっていた量販店。

国産4メーカー全てを取り扱っていて、中古も豊富だった。
なじみになると、多少の無理も聞いてくれた。
居心地も悪くなかった。結局、何台も世話になった。

その後、就職して、仕事に忙殺されるようになり、店とは疎遠になって行った。
店の情報は、人づてに聞いてはいた。陣容や雰囲気が、徐々に変わって行ったようだ。

そうこうするうち、バブル崩壊など時代は移る。
結局、この店舗は閉鎖となり、リソースは都心の店舗に集約となった。

それからしばらくした、ある日。
夜の通勤電車。
あの時、なじみだった店員さんを、偶然見かけた。

少し離れた、向こう側のシートに座る彼を、遠目に見やる。
都心の店舗からの帰りだろうか。
そういえば昔、彼が買ったと言っていた家は、確かにこの方角だった。
長距離通勤だろうか。

あの当時、飄々とした雰囲気で、笑いと好感を誘っていた彼だったが、今は少し、思い詰めたような、疲れたような表情をしていた。歳も取ったようだ。

そんなことを考えるうち、向かいの窓ガラスに映る自分が、ふと目に入った。
ため息のような、笑いが出た。

疲れた?歳とった?。
何だよ。全部、お互い様だ。

結局、声はかけずに、そのまま見送った。
電車は、私が先に降りた。

その後も何度か見かけたのだが、そのうち、ふっつりと見なくなった。



ombra 2006年 1月

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