乗ってみようかと思っている方に


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定年で、暇と金ができたから、あこがれだったアレに、とか。
ずいぶん乗っていなかったが、また乗ってみたくなった、とか。
いろんなケースがあるかと思いますが。

これから(また)バイクに手を出してみようと思っている方に。
既に乗っている者の感触として、一筆してみます。


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他の様々な道具と同様、バイクも日々「進歩」しています。
性能と一緒に、制御性も向上していますから、乗り易くはなっています。
パッと乗っていただく分には不都合が少ないのですが、道具に頼ってしまう度合いは、かえって増えて来ています。

「何かできない事があったとしたら、それは道具のせいなのです。だから、問題の解決と、能力向上の両立のため、もっといい道具に買い替えることが必要です。」

こういう方法論は、他の道具と同じです。

例えば、カメラ。
フォーカスが速くて手ブレ防止の、最新機種の方がよく撮れます。
貴方が努力するよりも、新しいの買っちゃった方が早道でしょう。

しかしバイクの場合、他の道具と異なることが、一つあります。
失敗が、貴方の身体に直接、返って来ることです。

バイクの出来が悪かったんだ!と後でいくら叫んでも(生きてれば)、壊れた身体は戻りません。写真などで失敗するような話とは、根本的に次元が違うのです。


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バイクの事故の様相も、変わって来ています。

バイクのケガと言えば、昔は、軽ければ鎖骨の骨折(肩から落ちたことによる圧迫骨折)、悪ければ大腿骨骨折、といった所が定番でした。後者は、バイクがぶつかって止まり、人間だけが前に飛ばされて、ハンドルバーに足を引っ掛けて折るのです。事故現場で、変な足の曲げ方をして転がっているライダーは、大体このパターンです。ヘルメットの中は、痛さで悶絶、または気絶です。

しかし近頃は、クルマの通行量は増えていますし、また、ミニバンや3ナンなど、各々が大型化しているせいか、衝突による「停止」が、直接ダメージをもたらすケースが増えているように思います。飛んで行かずにドスンと止められる。身体の側から見れば、特定の部分(衝突部位)に、大きな衝撃が瞬時にかかることになります。

結果の一例が、解放骨折です。これは(俗語的には)、身体の外に、骨が露出する損傷を言います。骨が関節を突き破ることもあるので、ダメージが大きいです。極端な場合では、背骨が頭蓋骨を突き破った、というケースも聞きました。当然、即死です。

そこまで至らなくとも、骨は感染症に弱いため、体外に露出すると治療が厄介です。気の早い医者にかかると、とっとと切断されて終わりのようです。ウエアのプロテクションなど、実際、ほとんど役に立ちません。


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バイクは、どこまで行っても手弁当です。
自分でやらねばなりません。
道具に奪われた可能性を我が手に取り戻し、我が身を自分で守らねばなりません。

その選択肢として、旧車(アナログ)を選ぶ向きもあるようですが、よしんば幸運にも、程度の良い機体に巡り会えたとしても、話は簡単ではありません。機体の維持や、技量の向上に加え、それを行うステージは、この世知辛い、クルマの流れの合間なのです。何重もの難渋が待ち構えています。道は遠いです。そんな勝負です。人には勧められません。


バイクの方が、何かしてくれるわけじゃないんですよ。


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ではおまえは何故乗っているのだ、と言われるかも知れません。
人のことなど、気にしてはいけませんね。それは、「手弁当」の厳しさが見えていない証拠でもあります。

私は、周りのバイク乗りを見ていると、共通点があるように思える事があります。
潔いのです。
多少うすら寒くとも、一人、自らの足に依って立つことを是とする、潔い連中。
逆に、そうでないと、保たない世界なのだろうと思います。

もしあなたが、これまで、バイクなしで来れているなら、そのような感覚から遠くて済んでいる証拠でもあります。何で今更、あえて苦労する必要がありますか。

もし、貴方がバイクに対して、具体的なイメージをお持ちでないなら。
バイクで何がしたいんですか?という問いに、多少は明確にお答えになれないようでしたら。
バイクは、お止めになった方がいいかと思います。

風になってみたい、なんて適当な理由で乗ってみても、風邪をひくのがせいぜいですよ。

ちなみに、私は風邪をひきません。
何故って、バカだから。(笑)



ombra 2007年 1月

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