今までに乗ったMOTO GUZZI

Mille GT について



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イタリアに行ってみると、スポーツタイプの GUZZI というのはあまり見かけないもので(GUZZI 自体あまり見かけないのだが)、大体はもっと「実直な」タイプの車種だったりするものだ。

ローマで、白バイ(青白だが)の走りを見た時には感動した。850T5ベースの車両だったが、何と言うか、言葉にはしにくいのだが、まるで違う生き物のような動きをしていた。
 鳥が飛ぶ、
 魚が泳ぐ、
 バイクが走る、
・・・まるで、ロードを優雅に舞う、そのために生まれて来た生き物のように、あのローマの流れの合間を、すいすいと泳ぎ回っていた。
乗り手も凄かったと思うが、あれは、究極の公道バイクではなかろうか。そんな思いが、ずっと消えずにあった。

「実直なGUZZI 」にも是非触れてみたい。そう思い続けていたことも、背景にあったと思う。


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ミレGT。ノンカウル丸ライトの、「実直な GUZZI 」である。
たまたま、走行の少ない中古に出会ったので、思いきって買ってみた。

最初は大変だった。車体もエンジンも、ルマン1000とそうは違わないように見えるのに、乗ってみると、こうも違うか!というくらい別モノだった。

随分と悩んだが、正体がわかるまで、と様子を見ながら乗っていた。その間に、スクリーンだのキャストホイールだの、ちょろちょろした所は手を入れた。

その「正体」がわかり始めたのは、走行が一万キロを過ぎた辺りだった。

エンジンは、レスポンスはいいのだが、猛烈なタイプではない。ルマン1000のような「燃焼感」もない。しかし、必要なパワーを、穏やかに、広いパワーバンドで提供してくれる。

ハンドリングは緩やかで、当初は「はっきりしない」感じに思える。フロントタイヤをワンサイズ細くして、ステアレスポンスを上げたいような感じ。しかし、解がそんなに簡単なら苦労しないだろう。

乗り込んでみるとわかるのだが、セルフステアは絶対に「外さない」。旋回への過渡での、フロントのレスポンスも遅くない。曲がろう、というこちらの意志に、しっかり、はっきり反応する。曲がりたがらないとか、ただのんびりしているだけのボケたハンドリングなのではなくて、前輪周りがいそいそレスポンスして、乗り手に余計な気を使わせることを避けた設定なのである。

実力が低いのではない。余裕なのだ。

こういう、設計側の奥深い意図というのは、試乗などのチョロ走りでは絶対にわからない。長い間付き合って、その挙動の逐一を肌身に感じてこそ、実感できるものだ。(タイヤのサイズを変えないでいて良かった・・。)

ブレーキも良くて、ロック寸前まで操作性が優れている。そしてそのあたりでも、フロント周りは、破たんの気配さえ見せない。

そんな感じだから、決して小さくも軽くもない車体だが、バランス取りに気を使う必要はほとんどなかった。クルマの間をすいすいと抜けるような運転も難しくない。(こちらがあまり気張っていないせいか、見た目がとっちゃんバイクのせいなのか、こういう運転をしても、ドライバーの反感や悪意が、あまり感じられなかったのは印象的だった。)
あらゆる場面で、安心感をベースにした、優れた作り込みが成されていた。

設定速度は、120km前後まで、と思う。(それ以上も当然出るが、あまり快適ではない。)その域に居る限り、とにかく真面目で実直なバイクだ。雨の日の街中、仕事に疲れた帰り道などでも、安心して乗れる感じ。実際、幾度か危ない目にあった際にも、困難なく対処できた。

いつも通り、普段そのままでいる乗り手の感覚に、付かず離れず、優雅に仕事をこなす。

バイクが守ってくれている、そういう意識を、うざったくない、遠すぎもしない、絶妙な距離で感じていられる。

優秀な執事のようなイメージ。

ローマの白バイが見せた動きの理由が、やっと何となく、わかったような気がしていた。


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ツーリングに出ても、ルマン1000とは、風景がまるで違った。

ルマンだと、もう前だけを見て、チョエーなんか言いながら走ってしまうものだが、ミレでは風景がよく見えた。

山深い峠などを他のGUZZI と走ると、ルマン達が小回りに苦労しているのを後ろから眺めつつ、花だ、猿だ、などと物見遊山をしながら、遅れた分はすぐ取り返す、そんな走りが楽勝でできた。(低速のつづら折れは、ミレの方が速かった。)

そのかわり、高速道路は、我慢ガマンの世界だったが。
(ルマンはキャッキャいいながら走っているうちに着いちゃう感じ。)

低速向けで実直なところは、当初の狙い通りだった。
気に入ってはいた。コレの良さがわかるのはオレだけだ。
そんな気で居た。



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その後、家庭環境の変化などもあったのだが、そのうち、だんだん、乗らなくなった。
何となく、走りに行くのは、まあ、この次でもいいか。
そんな感じになってしまうのである。

そんな状態がしばらく続いていた、ある日。
魔が差した。

これ、売れるだろうか。
試してみようかな。

とある掲示板に出してみた。
まさか売れはしないだろう、と思っていたのだ。
だって、普通、何が良くて、こんな特徴のないバイク買います?。(笑)

しかし、買い手はすぐに現れた。
うろたえた。

これ、買っちゃうんですか?。

「ボロい感じの乗りものが好きなんです。」

なっ、何て失礼な人!?(笑)。
しかし、意外に真面目そうな人でもあった。(失礼・・。)

こちらが売りに出していた以上、引っ込めるわけにもいかない。
商談は一瞬で成立してしまった。

後悔はした。が、未練はなかった。
自分でも不思議な感覚だった。

次の人が楽しんでくれるなら、それもいいだろう。
それに、縁があれば、回り回って、また戻って来るような、そんな気もしていた。
(↑未練たらたらじゃんか。)

ミレは、きっと、今は彼を守ってくれているはずだ。
時折思い出しては、そう思っている。
いや、祈っている。



ombra 2005年 12月

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