きままに的生活
日々思うこと、いろいろを思いつくまま・・・

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113 2001.3.24 花粉症とクスリ


私は高校生の頃からの、かなり年季の入った花粉症である。今では国民病とも言われるこのアレルギー疾患も、当時は珍しくあまり同情してもらえる病気ではなかった。

薬も、とにかく症状をおさえるために市販の鼻炎薬を飲み、その効き目の強烈さにハナの中は引きつり、ノドは砂漠で遭難したかのようなカラカラ状態。クシャミや鼻水が止まったとしてもこれには我慢出来ず、こっそりカプセルを開けて半分ずつ飲んだりという、いけないことをしたりしていた。

病院でアレルギー薬をもらうようになってから、どうにか私の症状も落ち着いてきた。数年前、原因不明のじんましんで渡り歩いた病院で処方してもらった薬がとても良く効き、そのとき花粉症も出なかったことなどから、そのSという薬をすっかり頼りにしていた。

しばらくしてわかったことなのだが、その薬はステロイド系の、とにかく強い薬だったようだ。どうりで、花粉の舞い狂う強風の日にマスク無しで闊歩出来たわけだ。

私は自分の体質にピッタリの薬が見つかったと喜んでいたのだが、あることからその薬と別れる決意をすることになった。

ある日、子供に出来ていたイボが自分にもうつっていることに気づいたのだ、それも顔に〜! すぐさま皮膚科に飛び込んだ。ちょっとピリッとくる液体窒素で患部を処置してもらったのだが、これはかなりショックな出来事だった。イボは粟粒ほどの小さなモノであったが、顔の各所や手の甲などにも発見されて感染力の強さを物語っていた。

ちょうど花粉のシーズンでもあり、皮膚科ではあるが、気さくな医師は薬を出してくれると言う。しかし、私が口にしたsという薬の名を聞いた医師の顔はたちまち曇った。

その薬、花粉症の治療に使うにはかなり強過ぎるものなのだそうだ。驚いたことには、免疫力を低下させてしまうという問題点があるのだという。ここでハッとする私。もしや、このイボも免疫力の低下のせいでうつりやすくなっていたのでは。風邪のたびに襲われる強烈な下痢も、この薬のせいなのか。

とにかく安全な薬に変えてもらい、その年はどうにか無事、花粉の頃をやり過ごすことが出来た。

そして今年。皮膚科とは縁が切れていたので、子供が毎週通っている耳鼻科で薬をもらうことにした。まだ症状の出る前だったので、とりあえず2週間分もらい、様子をみることになった。

そして昨日、子供のつきそいで耳鼻科に行った私は、前の患者さんに医師が話している薬のことを耳にして疑問を抱いた。「アナタはSは効かなかったんだったよねぇ」あの薬、ここでは花粉症の治療薬として認められているのだろうか? 飲んでも大丈夫なのだろうか?・・・飲めたら楽になれる・・・。

いつまでも頭を離れないその疑問。思い悩んだあげく、薬をもらいに行った薬局の薬剤師さんに聞いてみることにした。ここの薬剤師さんはかなりベテランとおぼしき女性で、とにかくうるさいくらい薬や治療法について語る人だ。

最初の頃は慣れずに「口うるさいヒト」と煙たかったが、実は彼女自身が喘息に苦しんでおり、親身になって患者のことを考えてくれる人であると知ったのは最近のことである。喘息の吸入薬用の携帯用器具も、無料のものを教えて分けてくれ、息子はかなり助かった。そのことから、私は彼女に対して信頼感を持つようになっていた。

気になっていたSという薬の名前を出したとたん、やはり彼女も顔をしかめて大きくうなづきながら話し始めた。

「これはね、ステロイド系の強い薬だから、ここの先生達はあまり使わないのよ。処方したとしても、うんとひどいとき、それも2〜3日分だけしか出さないの。必要なモノを簡単に薬というかたちで摂取出来てしまうから、効き目はあるんだけど体の方が安心しきって、自分で必要な免疫を作らなくなってしまうのね」

少し前に新聞でその危険性が話題になった、シーズンに1本打つだけでOKというステロイド系の注射も、この耳鼻科では絶対に接種しない方針なのだという。東京の知人はこの薬を頼りにしていて、新聞記事のことを知りながらもやはり今シーズンも注射を打った。薬の危険性よりも、花粉症の苦しい症状は我慢出来ない、と。その病院では例年どおり、気軽に注射してくれたそうだ。薬の副作用などについての話は一切なかったのだと言う。

花粉症のつらさは、罹ってみないと理解出来ないものだ。この症状が少しでもラクになるならという切ない気持ち、私には痛いほどよくわかる。しかし、その裏に潜んでいる未来への不安・・・まったく関係ない場面で、ひょんなことから副作用の恐さに直面することになるかも知れないのだ。

「Sを使うなら、ホントにひどいとき。それも寝る前の1回、1錠を半分にして、ね」

彼女の言葉を胸に刻みつけ、解消された不安とともに私は家路についた。盛岡のスギ花粉はあと1か月は飛ぶ、という予報である。