「ニャンコ語で丸一日過ごせたら手を打つぜ──」

 崎義一という名を冠するオレを前にして、幼稚なゲームに誘う面子は限られる。
ましてや、ニャンコ語で丸一日話そうなんて、章三なら絶対言わない提案だろう。

 そんな馬鹿げた遊びを堂々と持ち出してくるこの同じ年の男は、まさに毛の生えた心臓の持ち主と言えるかもしれない。

 侮るべからず、矢倉柾木。

「別に俺はワンコ語でもいいんだぜ?
とりあえず、かわいいギイを一日堪能できればそれで満足だわん。
だから、言葉なんてどんなんでも構わんの。ま、ワンコ語はこんな感じで。
でもにゃ、ニャンコ語のほうが、たぶん使いやすいはずだにゃ」
「──ワンコ語にニャンコ語ね……」

 思わず肩で息をしてしまった。

「これにはそれだけの価値はあるってことにゃ。俺たちにはにゃ。そうだろ、ギイ」

 確かに、矢倉の言葉には否定する余地がない。

 コレも恋のなせる業とでも言うのだろうか。

 オレはすでに諦めの心境になっていた──。


ニャンコ語約定



 すべては一枚の写真から始まった。
矢倉が写真部から手に入れたというそれは、先日の文化祭で行われたブラスバンド部の公開演奏の時のもので、舞台から客席に向かって撮られているその写真には、管楽器を持った部員のうしろ姿と拍手する観客の姿が写っていた。
素晴らしい演奏に惜しみない拍手を贈る観客たちはどの顔にも笑顔が溢れ、ブラスバンド部の演奏を称えている。
ぱっと見たところ、ごくありふれた観客席の風景のそれ。

 だが、その観客の中に葉山託生の姿が含まれているという事実が、この一枚をオレのトクベツにした。

 オレの想い人、葉山託生──。

 同じ一年生でありクラスメイトでもある託生は、どこか人間嫌いな部分があった。

 卵の殻を貼り付けたような硬い表情。
表情の変化に乏しい託生は、滅多やたらに笑わない。
いや、笑うどころか、睨みつけるようにオレを見る時のほうが断然多いかもしれない。

 何か助力ができないかとオレが行動を起こすたびに、勝手に手を出すなと睨みつけては威嚇してくる託生は、まるで手負いの猫のようだ。

 オレが近付くと決まって空気をピンと張って、オレから目をそらし、極力合わせようとしない。
緊張した面持ちでこちらを見るその姿は、どこか脅えているようにも見える。

 祠堂に入学して半年経つというのに、ふたりの距離をどこから打破したらいいのかわからない。

 ただ笑ってほしいだけなのに。オレの何が気に入らないというのだろう。
もしかしたら、この仕打ちはオレに対してだけなのか。

 オレを見て笑ってくれたら、こんな嬉しいことなんかないのに。
今のままじゃ、両想いなんて夢のまた夢かもしれない。

 はっきりと言えるのは、オレはどんな状況だろうが諦めるつもりなどもまったくないということだけで、今後はオレとあいつの根競べになると、オレはそう睨んでいた。



 恋とはエネルギーの塊だと思う。
それもまさにエコロジー。体(てい)のいい自家発電だ。

 普段から望み薄い恋にヤキモキしているせいだろうか。
偶然にも穏やかに微笑んだ顔を目にした日にはそれはもう感動モノで、オレの気分は一気に上昇すること請け合いだ。
つまり、正の精神エネルギーの放出となるわけだが……。これは理性でどうにかなるものではない。
章三が「顔がにやけてるぞ」と呆れたようなツッコミを入れてくる以前に、頬の筋肉が緩んでいるのが自分でもわかるくらいだし、その日一日がラッキー尽くしのように思えて、ついにやけてしまう顔を引き締めるのに四苦八苦してしまう始末だ。
自分で止めようにも止まらない。まさにエネルギーの垂れ流し状態と言えるだろう。
胸の奥底から自然と湧き出る『やる気満々』というこのエネルギーは、何事にも前向きな姿勢で挑もうという気持ちで満ちていて、これから待ち受ける明るい未来を夢見るような楽しさでいっぱいだから、もちろん足取りも軽くなる。
気分はルンルン、まさにハイテンションだ。

 しかし、現実というものはそれほど甘くはない。

 オレがしている恋は片想いであって、想い想われているわけではないから、意思の疎通などというものも友人レベルでしかないし、それ以上ということはまったくない。
いや、あの葉山託生のことだ。ヘタしたらオレは友人未満として認知されている可能性だってあるかもしれない。
極細の蜘蛛の糸より細いかもしれないふたりの関係を思うと滅茶苦茶やりきれないのだが、それが事実なのだから仕方がない。

 つまりはクラスメイトってところが妥当なのだろうが……。
この場合も「仲のいい」の形容詞がつくまでには至っていないので、とりあえずはそのあたりから何とかできないだろうかと、オレは常々思っている。

 好きな相手と少しでも親密な関係になりたいと望んだとしても、それは自然のことだろう?

 片想いというものは、そのものズバリ一方通行なわけだ。
一方通行……。これまた何とつれなく愛想のない言葉だろうとは思うが、実際そうなのだから事実は事実として受け止めなければならない。

 哀しいかな。託生の一挙一動がオレに与える影響力はダイナマイト級だというのに、オレの気持ちなどこれっぽっちも知らない当人は、愛想のひとつも向けてはくれないし。
声をかけたらかけたで訝しむように睨んできては、ぷいっと顔を背けてしまうのはいつものことだ。

 とにかく今は片想いだということは重々承知の上で恋してるわけだから、当然、楽しいばかりの恋ではないことはそれなりに覚悟している。
しかし、進展もなにも、相手に毛嫌いさえている可能性だってあるかもしれないこの現実はあまりにも厳しく、オレの明るい気持ちに反比例して前途洋々とは言いがたい先行きに、時々不安を感じたりもする。

 自分の舞い上がり振りが哀れに思えてしまう時もあれば、馬鹿なことをしていると自嘲する時もあるし、正直、何て厄介な相手を好きになってしまったのだろうと思った時も一度や二度ではない。

 それでも好きという気持ちは自分でもどうしようもないのだから、これは手強い相手を好きになった自分の根性を褒めて、現実を受け入れるしかないじゃないか。
この気持ちを捨てようなどとは端から考えられないのだから。

 辛いこともある。それでも、誰かを好きになるのは楽しいし。
寂しいけれど、好きな相手がそこにいるだけで嬉しい。
自由にならないこの想いを持て余しつつも、この無謀な恋をオレ自身が一番楽しんでいるのがわかるから、どんな辛い現状であれ、このまま好きでいていいんだと自分に言い聞かせることができるのだった。

 まったく、オレがこんな殊勝な恋をしてるなどと誰が想像するだろう。
自分でも自分が信じられないような恋をしてると思ってるのだから、これはもう運命としか言いようがない。

 笑ってくれない相手が笑った時の顔を想像して、胸を焦がしてドキドキする。
あの声を耳にして、想う相手がこの世界に存在している幸運に無性に感謝したくなる。
我ながら自分の酔狂さに恐れ入る時もあるけれど、それでも今を精一杯生きているという気持ちになれるのがすごくいい。

 恋にはいろんな恋があり、オレが落ちた恋はこんな恋だった。
この先どうなるかはわからないが、一日一日、精一杯大切にしていきたいと思う。

 とてもせつなさに溢れてて、それでいて穏やかな気持ちになれる恋。
見つめるだけで今はいいと、今はそれに甘んじていようとさえ殊勝にもオレに思わせる、すごく厄介で、真綿で包んでしまいたくなるくらい大切な恋。

 強引で機敏に立ち回るオレしか知らない知り合いがこんなオレを見たらどんな顔をするだろうか。
そんな想像をするだけで思わず笑みが零れてしまうのだった。

 こんな恋をするなんて、本当にオレらしくないのかもしれないけれど、それでもこの気持ちは恋に違いなく。
葉山託生がオレにとって極めてトクベツな存在だということは、最早疑う余地などなかった──。





 そのオレの想い人である「笑わないはずの託生」が、写真の中で、ほんのりと頬を上気させながら笑っている。
きらきらと目を輝かせてこちらを見ている。想い人のすごく幸せそうな顔がここにある。

 この写真を初めて見た時、頬が一気にカッと火照ったのがわかった。
胸の鼓動が早くなって、ドキドキが止まらなくて、すごく気持ちが高揚した。

 全身の血が沸騰するような感覚に襲われることなど、そんな経験は滅多に訪れない。

 ほしい、と即座に思った。絶対にこの写真を自分のものにしたいと──。

 だが、現実は、そうはうまくはいかないように仕組まれている。
オレの想い人が写っている写真には矢倉の想い人も写っていたのだった……。





 矢倉とオレの共通点。それは、「一方通行の想い人がいる」ということだ。
お互い、相手が抱えた片想いのせつなさややるせなさを身に染みて知っているものだから、たまに共同戦線を張ったりもするが、いつもは、どんなことを話していたとか、誰と一緒にいただとか、話のついでに軽く情報交換するくらいで、物質的な提供やこのような砕けた提案を今まで矢倉柾木がオレにしてきたことなどなかった。

 だから、「ほしい」の一言が喉に詰まった。

 だが、余程オレが物ほしそうな顔をしていたのだろう。
条件を飲んだら譲ってやってもいいと矢倉のほうから言ってきた。

 ただし、矢倉としてもタダで譲る気はまったくないのは明らかだった。
でもまさか、あんな提案をしてくるとは、だれが想像するだろう。

 突然、「ニャンコ語で丸一日過ごせたら手を打つぜ」と言われた時、「は?」と間抜けな声でもって聞き返してしまったくらい、その提案はオレにとって突拍子もないものだった。

「俺だってこれを手に入れるために滅茶苦茶苦労したのにゃ。
ギイにも少しは俺の苦労を分かち合ってほしいにゃ」
「……ちなみに矢倉の苦労ってのは、そのニャンコ語に匹敵するくらいのものだったのか?
どうなんだ?」

「ギイ、そこは『どうにゃんだ』にゃ。やる気があるんにゃ?」

 背筋を伸ばして、至極真面目にニャンコ語に取り組んでいる矢倉の顔はいかにも真剣そのものだった。
だが、目がおもしろそうにオレを見ているのが知れて、少しだけムカッと癇に障る。
オレで遊ぶなと言いたいところだが、託生の写真という人質を取られてしまっていてはオレにはどうすることもできやしない。

「……いいから教えろ……にゃ」

 矢倉の真剣な眼差しに促されて、小声ながらも返答するオレ。
矢倉の思惑にむざむざと乗るしかないのは情けないが、これも写真のためと思えば我慢できないことはなかった。

「よしよし、それでいいにゃ。それじゃあ、ギイの真心に免じて教えてやるにゃ。
ホントににゃあ、これには苦労されられたのにゃ。
今思い出しても恥ずかしさでいっぱいにゃ。ギイ、俺の苦労話を聞いてくれにゃあ」

 そう言うと矢倉は項垂れるように、オレの左肩にぽんと手を置くと憤慨をこめて吐き捨てた。

「俺はだにゃ、コレのために丸一日赤ちゃん言葉をしゃべらされたんにゃ!
ご飯は『マンマ』、外は『オンモ』。語尾だけじゃにゃく単語もすべて言い換えにゃきゃにゃらんかったのはホントに辛かったにゃ。
それに比べればニャンコ語にゃんて目じゃにゃいだろう? 語尾をちょこっと変えるだけにゃもんにゃ」

 モノは言いようとはこのことだ。
比較する対象を与えられてしまうと、人はついつい比べてしまう。
これはもう、人間の性というものだろう。

 実際オレは、寮の部屋に章三とふたりでいる場面を想像してみた。
そして、朝から夜までの丸一日、赤ちゃん言葉での生活を頭に描いてみる。
『オンモに行ってきまちゅ』『マンマでしゅよ〜』『もうオネムだからネンネちまちょうね』……。

 次の瞬間、蔑んだ目でオレを見る章三の、ピクピクと浮き出るこめかみの筋がリアルにポンと頭に浮かんで、突然寒気に襲われた。
知らず知らず、オレは喉の奥でクワバラクワバラと呟いていて、我ながら自分の条件反射に愕然とする。

──冗談じゃない。まだニャンコ語のほうが笑って誤魔化せるというもんだ。
確かにあれに比べたら、ニャンコ語のほうが遥かにマシってもんじゃないか。

 隣りの男をちらりと見れば、「俺と同じ目に合いたいか?」と挑むような目を向けてくる。
その視線は、「ギイが望むのなら止めないけどな」とでも言っているかのようだった。

──お調子者のこの矢倉でさえも、赤ちゃん言葉で一日過ごすのは大変な忍耐を強いられたんだ。
しなくてもいい苦労をどうしてオレが背負う必要がある? ニャンコ語でさえ充分すぎる代償じゃないか。

「赤ちゃん言葉ね……」

 よくもあんな言葉で一日過ごしたものだなとオレは感慨深く思いながら、矢倉に一瞥を投げた。

「それは確かに同情の余地があるな……」
「ギイ、にゃにを悠長に。ある、じゃにゃい。ありまくりにゃ」

 矢倉だって、自分でも何を馬鹿なことをしてるんだと理性ではわかっていたのだろう。
それでも、喉から手が出るほどほしい写真を目の前にして、「いらない」の一言が最後まで言えなかったに違いない。

 どんな手段も問わない、どんなことをしてでもこの写真を手に入れたいと思った矢倉の気持ちが自分に重なって深い同情を覚える。
たかが写真一枚のために恥も外聞もかなぐり捨てた矢倉の根性に、「よく頑張ったな」と賞賛を贈りたくなった。

 そんな気持ちを抱くのは、オレが矢倉と同じ立場でもきっと同じような愚行をするだろうと安易に想像できるからだろう。
オレも矢倉もそれだけの気概をこの恋にこめていた。

 でも一方で、写真ごときにそこまでのめり込んでしまう切羽詰まった想いの深さに、少しだけ哀しくなる。

 遠くから相手の幸せを見守ることしかできない矢倉と、笑わない託生の平穏を維持しようを努力するオレ。
似た者同士のオレたちにとって、好きな相手の笑顔が見れるこの写真の価値は何ものにも代えられない。
つまりはそういうことだ。

 写真の中、託生の斜めうしろに座っている八津宏美が託生同様に優しい笑顔をこちらに向けている。
手の中の一枚を、じっと覗きこみながら、ああ、いい笑顔だなと素直に思えた。
きっと矢倉もこの写真を一目見て、惚れこんだのだろう。

 写真を見つめる矢倉の表情はとても穏やかで幸せそうに見えた。
この写真は矢倉柾木にとっても、まさに眩しい一枚に他ならないのだと知れる。

 だからもしかすると、価値あるその一枚を譲ってもいいという矢倉は、ある意味太っ腹と言えるかもしれない。

「いいのか……にゃ。オレがコレをもらってしまっても」
「いいんだにゃ。実はもう一枚あるにゃ。ただし、八津の写りは断然そっちのほうがいいんだにゃ。
でもこっちのは……ほら、葉山の顔が半分切れてるにゃ。
だからさ、かわいそうにゃギイには仕方にゃいからそっちをやるにゃ」

 遠目にその姿を見るだけで精一杯の、想いが通じるなんて夢のまた夢のようなところまで似ているオレたちの片想い。

 オレは、先日、矢倉が友人たちに囲まれながら学生寮に戻ってゆくひとりの同級生の姿を見えなくなるまで、じっと見つめていたのを知っている。
「ちぇ」とそばに落ちていた石を蹴りながら、「おまえも俺もまったく厄介な相手を好きなったもんだよな」と、矢倉は何かを諦めたように溜息ついていた。
あの時の矢倉の顔は笑っているのに目が真剣で、普段の陽気な矢倉ではなかった。

 矢倉柾木はどうしようもないくらいに八津宏美に惚れている。それは間違いない。
勇気がなくて告白できないのとは違う。
矢倉は相手の立場を考えて、自分から片想いに甘んじているのだった。

「しかし、ニャンコ語とはにゃあ……。矢倉、ほかに候補はにゃかったのか」
「いや、たくさんあったにゃ。例えば──、最初は仙台弁とか佐渡弁とかいいかなあと思ったっちゃ。
関西弁はなあ、今じゃテレビでありふれてておもしろくあらへんし。
名古屋弁もどえりゃあ魅力的だったがね。
なんか、迷っとったっちゃけど、方言はやめといたと」

「……ちなみに最後のはどこのにゃ?」
「博多ばい」

「……にゃるほど」
「ギイ、方言ってのは難しいにゃ。その点ニャンコ語は楽ちんにゃのにゃ」

 ウインクで返すこの愛嬌溢れた笑顔が矢倉本来の気質なのかはわからない。
けれど、目の前の矢倉柾木は「浮かれている」という表現がぴったり合うほど機嫌がよく、それをまったく隠そうともしていなかった。

 託生の顔が半分切れたもう一枚の写真を覗き込んで、自分でも気がついていないのだろう。矢倉が目を細めて微笑んでいる。

 オレだってこの報酬にはとても惹きつけられている。
喉から手が出るほどほしかった『笑顔』を目の前にして、どうして浮かれないでいられようか。

「わかったにゃ。商談成立にゃ」
「じゃあ、今から二十四時間。明日の二時までギイも頑張るにゃ」

 恥ずかしいとか、めんどくさいとか。そういう気持ちを抱くよりも前に。
とにかく一日無事にクリアして目的のものをこの手にしたい。

 それほどにほしいと思わせるそれ──。

 自分の気持ちを自由に出来なくて、自分自身を止めることができないなんて、これはもう異常というしかない。
どんな片鱗でもいいから託生に縁あるものならばこの手にしたいと望んでしまう。
恋というものは本当にすごいと思う。

「俺は鬼じゃにゃいにゃ。ギイにだけに課すつもりはにゃい。オレも付き合ってやるにゃ。
ありがたく思うように」
「よく言うにゃ。矢倉は単におもしろければいいだけにゃ」

「まあ、そうともいうにゃあ」
「しかし……それはそうと、一日ほんとにこんにゃんでしゃべるつもりにゃのか?」

「いいじゃにゃいか。特に今日、用事を作らにゃけりゃいい話にゃんだから」
「そうはいかにゃい。今日はこれから評議委員会があるにゃ」

「は? 一昨日あったはずじゃにゃいのか?」
「臨時の職員会議があって、先生の都合で今日に延期ににゃったにゃ。
まさかオレに評議委員会でこの話し方で行けと? そんな無体を言うつもりじゃあるまいにゃ?」

「いや、約束は約束だにゃ。俺は授業中も赤ちゃん言葉で通したにゃ。写真部の奴らはまさに鬼にゃ。
平日にこんな条件を課すにゃんて。
それに比べたら俺はギイに優しいにゃ。平日は避けてやったにゃ。
土曜の今日を乗り切りさえすれば明日の日曜の二時にはこの写真はギイのものににゃってるにゃ。
よく考えてみるにゃ。本来、この条件じゃ俺の苦労の半分にも満たないにゃ。
それともギイは諦めるにゃ?」
「……いや、もちろん受けさせてもらうにゃ。
そこまで矢倉が苦労して手にした写真にゃら、やっぱりオレもそれ相当の苦労を負わないといけにゃいだろう」

「わかってもらえて嬉しいにゃ。恥ずかしいにゃら評議委員会には無言で通せばいいにゃ。
喉が痛いとか理由をつけて筆談にすればにゃんとかにゃるさ」
「にゃるほど。そうはいい考えにゃ。わかった、そうするにゃ。だが、おまえも物好きにゃ。
こんなことをオレにさせるくせに筆談を勧めるとはにゃあ」

「ニャンコ語をしゃべるギイもいいけど、困った顔もまたいいにゃ。
ギイが努力してるってとこがミソにゃのにゃ」
「人の苦労を高みの見物ってわけにゃ?」

「高みの見物とは人聞きが悪いにゃ。俺だってギイにつきあってるにゃにゃいか。
それともギイひとりで頑張るにゃ?」
「あ、いや……。同志がいるのは心強いにゃ」

「そうにゃろ? まったく、俺に少しは感謝してほしいにゃ」
「すまん。悪かったにゃ」

「よし。なら約束にゃ。明日の二時まで。そしたらはコレはギイのもんにゃ」





 そして矢倉と別れたオレは、その後、評議委員会に出席した。
いつ話をふられるか、誰かに話しかけられたらどうしようか。
始終、期待と不安が織り交ぜあった委員会となった。

 ニャンコ語を話す崎義一を嘲笑う輩もいるかもしれない。
その場合は逐一、哂った全員の顔を覚えておいて、のちのち後始末をすればいい。
いや、それとも『言わせたい奴には言わせとけ』の意気込みで挑むべきだろうか。
祠堂の中のことだ。トチ狂った崎義一というのもおもしろいかもしれない。

 考えれば考えるだけいろんなことが頭に浮かんで、いつもより集中して委員会にのぞむことができなかった。
それぞれのパターンを頭の中でシュミレーションしながらも、やはりどこかにオレの中で『恥ずかしい』という気持ちがあったのだろう。
評議委員会の間、ずっと落ち着かない時間を過ごしていた。

 ところが結局、その日はたまたま活動報告だけで議案がなかったため、幸いなことに議長以外はひとりとして発言する機会もなく、オレはヘンな言葉遣いをしなくて済んでしまった。
とても呆気なく終わった評議委員会。これこそまさに案ずるより産むが易しだ。

 委員会の終了後、同じ一年の野川勝が何かと話しかけてきた時はどうしようかと一瞬迷ったが、喉が痛くて声が出ないと筆談で伝えると、ちょっと驚いた顔をしつつも、馬鹿っ丁寧なほど心配してくれた上、「それは大変だね、お大事に」と労いの言葉をくれた。
概ね、矢倉のアドバイスが功を奏したことになる。

──案外、気にすることなかったか。

 自分でも馬鹿なことをしていると思う。
どれだけ馬鹿げた振る舞いかもわかっている。

 それでも、何かをしてないと不安になるのが恋なのかもしれない。

──あとは食事時さえ切り抜ければ何とかいけるか。

 そんなふうにこの時のオレは、オレにしては珍しいほど楽天的だった。
ふんふんと鼻歌でも歌うように残りの時間の過ごし方を考えていたのだから……。

 ところが、寮の部屋に戻ったところで、頭からすっぽり抜け落ちていた大きな問題にオレは気付かされた。

──まずい。

 あろうことかオレは、一番身近な男の存在をすっかり忘れていたのだった。

──章三がいたんだった!

 廊下を歩くオレの足が一旦、止まった。

 オレのルームメイトであり、次期風紀委員長と名高い赤池章三は、とにかくチェックが厳しく、やらたに目聡い。
章三が普段とは違うオレに気付かないはずがない。

 寮の部屋に戻ると、案の定、章三が戻っていて、「ギイ、風邪ひいたんだって? 野川が騒いでたぞ」とオレの顔を見た途端、話しかけてきた。
以前、芝生でひと眠りして、もう少しで休み時間を大幅オーバーするところだったという失敗談を覚えていたのだろう。

「昼休み、腹でも出して寝てたんだろう。祠堂の秋は寒いからな。
昼寝するにしても外で寝るのはそろそろやめとけよ」

 そう続けて言ってきた。

 無視を決め込む相手ではない限り、話しかけてきた相手に対しては返事を返すのが当然の礼儀だとわかっている。
しかし、ここでヘタに返事をしていいものだろうか。
オレは声を出すことを、数秒間躊躇してしまった。

「……ギイ? どうやら声が出ないってのは本当らしいな。おまえ、大丈夫か?」

 オレがうんともすんとも言わないでいると、章三はオレの顔色を伺うようにじっと見つめてきた。

 オレはすごくドキドキしていた。
だが一方で、どこかで章三を冷静に分析している自分がいて、すべて風邪のせいだと勘違いしてくれる章三は鋭いようでどこか甘いなと思っていた。
基本的に良心的な人間だからだろうが、勝手に言いように解釈してくれるのが今はとてもありがたかった。

「ほら、これ飲んどけ。喉にいいぞ」
「ああ……」

 渡されたマグカップには淡い黄色の濁った液体が入っていた。
手に持つとカップが熱い。

「レモネードだ。レモン汁と蜂蜜が入ってるから。それ飲んで今日は出来るだけ寝てることだな」

──レモンと蜂蜜? いったいどこから調達してきたんだ、章三……。

 このあまりの手際のよさに、オレはわずかにだがおののいてしまった。

 まず、すごく意外だったのだ。
ルームメイトとして半年一緒に過ごしてきたが、章三がここまで世話好きだったとは思わなかった。
改めて章三の人となりを考え直さねばならないと反省する。

──無駄に整理整頓の好きな奴だなとは前々から思ってはいたが、これじゃあまるで母親だな……。

 実家に戻れば炊事洗濯料理はお手のものという、主婦の鑑(かがみ)のような腕前を持つ章三である。
母親が早くに亡くなったこともあって、「お母さん」の役割を章三がせざるをえなかったのだとは理解できる。

──それにしても、オレ相手にも世話焼きするってのも章三らしいっていうか、何というか。

 それから、章三に夕飯の時間まで横になってろと無理矢理ベッドに寝かされ、何だかんだと時間が過ぎた。

 体温計を用意したり、「喉は渇かないか」と聞いてきたりと、章三はオレのためにあれこれ動いてくれ、お蔭で今更風邪じゃないんだとはとてもじゃないが言える雰囲気ではなくなっていた。

「ギイ、気分はどうだ? 喉は痛いか?」

 すぐ良くなるからな、今は大事にしとけ、と本気で心配してくれる章三に対し、すごく申し訳ない気持ちで一杯になる。

 一方で、後が怖いなと身の縮む思いを味わっていたオレは、良心の呵責に耐え切れずというより、被害は最小にと防衛本能が疼いて、「章三、実はさ……」と自分の置かれた状況を説明しようと何度か口を開くのだが、オレが言いかけるたびに、「喉が痛いんだろう。しゃべらないほうがいいぞ。それとも何かほしいものでもあるのか」と章三が心底心配そうに見つめてくるので、情けないことにその先が続かない。

 あの慈愛の眼差しにすべてを見透かされてしまったらと思うと、喉が引きつるような感覚に陥ってしまい、結局、「いや……、にゃいが……」と口の中でもごもごと言葉を濁してしまうのだった。

──今、誰かに根性なしと言われても、これじゃ、まったく言い返せないな。

 布団の中で呟きとなるオレの声が章三に届いたかどうかはわからないが、どうやら章三はオレの言葉遣いのおかしさにはまだ気付いていらいらしい。
これがまた意外といえば意外なのだが……。

──さて、どうするか……。

 掛け布団を引っ張って心なしか顔を隠す。
今は章三の心配げな視線に晒されるのが正直すごく辛かった。

 これもすべて、章三と視線が合うと蛇に睨まれたような気分になってしまうのがいけない。
なぜだろう。やはり隠し事があるのがいけないのだろうか。

 しかし、前々からそうだろうなとは思ってはいたが、まさか章三がここまで相手が弱者となると五割増しに優しくなる典型的なタイプだとは思わなかった。
これは新たな発見だ。
だが、このタイプは悪意に対しては二倍に返す性質なので、こちらに含むところがある場合はそれこそ要注意しなければならない。

「とにかく寝てろ。時間になったら起こしてやるから。それとも夕飯、部屋まで運んでやろうか?」

 あくまで善意の塊でもってオレに接してくる章三。

 首を左右に振って、そこまでしなくていいと意思表示するオレに、「そっか。遠慮しなくていいからな」と笑顔で返してくれるのだが、オレにしてみればその笑顔がものすごく怖いんだってことが、本人はまったくもってわかっていない。

 はっきり言って、章三に優しくされるたびにオレの心臓はドキドキ高鳴って、章三に聞こえてしまうんじゃないかと気になっていたのだった。

──確実に血圧が上がってるだろうな……。

 章三は曲がったことが大嫌いな男だ。騙されたと知ったらどれほどの怒りを覚えることか。
ましてや、母を早くに亡くしているせいか、健康に関して章三はとても過敏である。

──こりゃ、バレたらエライことだぞ。

 ここまで世話させといて、「仮病でした。すみません」で済まされるはずがない。

──参ったな……。

 窓の外を見れば、夕焼けに赤く染まった山の稜線が遠くに見える。

 早く一日が終われ、とオレは切実に祈るのだった。





「ペルー沖の海水温が高くなる現象。
梅雨入り、梅雨明けが遅くなり、冷夏暖冬となりうのがエルニーニョ現象っと。
ああ、ギイ。起こしてしまったか? 悪かったな。それよりどうだ、気分のほうは?」

 どうやらあのまま寝入ってしまったらしい。
予習をしていたのか、机に向かっていた章三がこちらに顔を向けて具合のほどを訊いてきた。

 オレが周りを見渡したのを、時計を探していると察したのか。
「あれからまだ一時間も経ってない。もう少し寝るか?」と章三がオレの言葉の先を読んで答えてくれた。

 窓の外はすでに薄暗く、部屋の中は電灯がついていた。
そろそろ夕食の時間のはずだ。

 オレが起き上がるのを見守るように見ていた章三が、「その分なら大丈夫そうだな」とほっと息を吐く。

「調子がいいのならよかったじゃないか。ちょうどいい。起きたついでに頭の体操だ。
ペルー沖の海水温が低くなる現象を答えよ。
これが起きると梅雨入り、梅雨明けが早まり、夏は暑く、冬は寒くなる傾向がある。
さて、その名称は何現象だ?」

 何を藪から棒に。そんなの雑作もないことだ。オレを試そうとはいい度胸じゃないか。
そんな意気込みで、早口で「ラニーニャにゃ」と答えてしまってから、しまったと思った。

──ま、まずい。ついニャンコ語でしゃべってしまった。

 誤魔化すようにオレはわざと咳き込んだ。
だがすぐさまハッと我に返って、仮病を演じてどうするつもりだ、とオレは自分自身に突っ込んでいた。

 章三がしかめっ面でじっとこちらを見てる。
びくびくしながら、オレもじっと章三を見つめ返した。

 すると、章三はにっこりを笑みを浮かべて、「口が回らないとは、ギイらしくないな。まだ喉の調子が悪いのか? 悪かったな。風邪はひきはじめが肝心だ。大事をとって極力しゃべらないほうがいいぞ。」と気味が悪いくらいの上機嫌さで労わってくれた。
喉についてはともかく、思ったよりオレの風邪が大したことないのが嬉しいらしい。

 普段から理路整然としている章三は筋道を立てることに熱心すぎる節もあるが、思いやりがないわけじゃない。
周囲の関係や状況をよく見ているし、気配りを忘れない。
口には出さないが、いろんなことを考えていると思う。

 なのに。

──どうして気がつかないんだ、章三。おまえの観察力はその程度なのかっ!

 今回、すごく心配をかけて申し訳ないと思う反面、オレはとても苦々しく思うのだった。

 とはいえ、これは完璧な八つ当たりだ。
自分の行いを棚に上げて、物事を見極める力がバランスよく備わっていると思っていた親友の能力を疑うとは何たることだろう。
それに章三が状況判断を間違えているとは思えない。
今回はただ間が悪いだけだ。今はただ、そう信じたかった。

 夕食を食べに食堂に行った時も、章三は何も言わないが、オレを気遣っているのがわかった。
例えば、オレの食べる様子をじっと見ているところからして、食欲があるのかどうかをチェックしているのが丸わかりだ。

 オレは風邪などひいてはいないし、具合が悪いわけでもないから、普段通りに食べていた。
これ以上、病人のふりをするのは心苦しかったし、この際だからばれてしまえとオレはすでにこの時、腹を括っていたのだった。

 隣りに座る章三が、オレの食欲のありように満足そうに目を細める。

 デザートの林檎までぺろりと綺麗に平らげると、すかさずお茶がすっと横から出てきた。
オレは湯飲みを軽く上げて、章三に礼を取った。

 まずいまずいまずい。
自然にばれてしまえばこちらとて覚悟を決めるものを、自分から口火を切るとなると話は違ってくる。

「ギイ、お茶のおかわりは?」

 何も知らずにオレの世話を焼こうとする章三。

──どうするべきか。このままではますます言い辛くなってしまうぞ。

 何か打破するようなアイデアがないものか。

 そんなことを考えていると、元凶の矢倉がへらへら笑いながらトレイを片手にこちらにやってきた。
どうやらオレの後ろのテーブルに着くつもりらしい。

 案の定、矢倉はオレの真後ろの席に座り、さっそく箸を手にして食べはじめた。

 その矢倉に、「おい、矢倉」と小声で話しかける。
すると、「ん?」と口の中にコロッケを入れながら矢倉柾木はこちらを向いた。
「にゃんだ?」と目で尋ねてくる。

「例の条件、日延べしにゃいか? ちょっとまずい状況ににゃってしまったにゃ」

 オレは思い切って言ってみた。

 すると、矢倉は口の中のものをごくんと飲み込み、
「何を言ってるんだにゃ。ギイ、約束は約束にゃ。
だいたい、また後でやり直すにしてもその時はその時で都合が悪くにゃってるかもしれにゃいだろうが。
ここまで頑張って来たんじゃにゃいか。もう少しだにゃ。ギイ、根性を見せろにゃ」
やや不機嫌そうに睨んでくる。

 ここまできてそれはないだろうと言いたいらしい。
だが、こちらも切羽詰まっているのだ。

「いや、にゃんだ。章三がちょっと誤解をしてオレの身体を心配してるんだにゃ。
これで仮病だと知られたら、とてもじゃにゃいが後が怖い。
あの章三のことにゃ。きっとコトの原因をはじめから洗い出そうとするだろうし。
そしたらおまえの名前をオレは隠し通せる保障はにゃい」

 おまえも不利になると強調して、オレは続けた。

「オレはともかく、矢倉は原因とにゃるものを誰にも知られたくはにゃいだろう?」

 最後の言葉が功をなしたのか、矢倉は少し考え込んだ。
だが、「赤池にはゲームだと言えばいいことにゃ。それともにゃにか? ギイは赤池に弱みでも握られてるにゃ?」と、結局、ニャンコ語の続行を勧めてきたのだった。

「いや、そんなことはにゃいが……。
しかしだにゃ、これはただのゲームにゃんだと説明しても、写真が写真にゃ。
あれを見られたら、オレの気持ちがたぶん章三にバレるにゃ。
そしたら、おそらく芋づる式におまえのこともバレてしまうにゃ。
おまえはそれでもいいにゃ? どうするにゃ?
おまえは知らにゃいかもしれにゃいが、この祠堂であれほど男同士の恋愛に厳しい男はいにゃいにゃ。
入学したての頃にゃらばともかく、これだけカップルが多ければ普通少しは慣れるもんにゃ。
にゃのに、章三は郷に入れば郷に従えという言葉をはにゃっから無視してるにゃ。
そんな章三にオレが託生に惚れているとバレた日にゃどうにゃるか。絶対、章三の邪魔が入るにゃ。
今でも託生とは接点がにゃいに等しいのに、これ以上、疎遠ににゃるのは勘弁にゃ」
「まあにゃあ、赤池は泣く子も黙る風紀委員にゃもんにゃ。あれはもう天職にゃ。
四六時中見張られてたら、さすがにギイも分が悪いにゃあ……」

「そうにゃろ? だったら……」
「しかしだにゃ。要はバレなきゃいい話にゃ。
この際、赤池にゃ悪いが、ギイは病気と誤解させとけばいいにゃ。
ここを出たら部屋に籠って寝ちまうのが一番にゃ。
身体がだるそうな気配を見せれば、早寝したところで赤池だってにゃにも思わにゃいにゃ」

 やはりそれしかこの危機を切り抜ける方法はないのだろうか。

「……わかったにゃ。とりあえず、今夜はそれで切り抜けるとするにゃ」
「そうにゃ。それに明日は日曜にゃ。
朝早くからギイが一人で行動しようが、『復活した』って書置きさえ残してしとけば、赤池だってにゃっとくするにゃ」

 矢倉柾木という人間は、自分の興味を満たすためなら手段を選ばないところある。
日頃の行いを見ていればわかる。

 単に頬への軽いものだとしても、おふざけ半分で誰かれ構わずキスを仕掛けるなど日常茶飯事。
その場を盛り上げるためならば、笑いキノコとわかっていても躊躇なく口にするかもしれない。
おそらく他で気を紛らわさないとやってられないということだろうが……。

──それほどまでに秘めた想いというのは辛いんだろうな。

 ふいに矢倉がオレから視線を外した。
新たに向けた視線の先には、矢倉の想い人の姿があった。

──そうだよな。誰だってそうだ。いつでも好きなヤツを見ていたいもんさ。

 がやがやと賑わう食堂の中、ふたつ向こうのテーブルに八津が数人の友人たちと食事をとっているのが見えた。

 誰が見ても、それは何気ない食堂のいつもの風景だった。
それまで箸を進めていた八津が、何かおもしろい話を聞いたのか、箸を握りこんだ手を口元に持っていきながら朗らかに笑っている。

 八津宏美を見つめる矢倉の表情に変わりはなかった。ただ、その姿をひたすら追うだけだ。
まさに陰ながら見守り続けているという表現がぴったりだった。
だが、だからといって、八津が取り巻き連中に囲まれているのを矢倉が穏やかに見ているのかというとそうではなく。
気がそぞろとでも言ったらいいだろうか。
じっと一点を見つめる矢倉の口からは、肺の奥底から空気を押し出す長い音が漏れていた。

 ほんとに八津が好きなんだな、と思う。

 だから。

「わかったにゃ。それじゃこのまま続行するにゃ」

 オレにはそれしか言えなかった。

 少しの沈黙ののち、オレは席を立とうとした。
すると、矢倉がオレにしか聞こえないくらいの小さな声で、ぼそぼそっとある言葉を口にした。

 その言葉がすごく印象に残って、三秒ほどオレはそこから動けなくなった。

「じゃあオレは行くにゃ」
「ああ。またにゃ」

 トレイを片付けながら一度だけ矢倉を振り返ると、矢倉は友人たちに囲まれていた。
「にゃーんちゃって」とおどけながら率先してニャンコ語を披露している。
楽しそうな矢倉の笑顔。それでも矢倉の気持ちはそこにないのだろうと思えた。
八津を見ていなくても、かの存在を全身の気配で追っているのがオレにはわかった。

──よりせつないのはオレか矢倉か……。ま、どっちもどっちだな。





「ギイ、矢倉と仲が良かったんだな」

 食堂からの出際に章三が、オレと矢倉がこそこそ小声で話していたのが余程意外だったのか、突然訊いてきた。

「僕からしたら、矢倉は掴み所がないイメージがあるんだが。さっきの矢倉はやけに普通っぽかったな」
「は? 普通っぽかった……?」

「ああ。何ていうか、矢倉はいつも心ここに在らずって感じだからな。
仲間内を騒いでいても本当に楽しんでいるのやら。
まるで笑った仮面を一枚被っているような気がしないか? 僕はそう思うのだがね。
その点、さっきおまえと話している時の矢倉の顔には意思があった。何かをちゃんと訴えていた。
ふたりで何を話していたのかはわからなかったが、奴の欲が見えたというか……。
矢倉が心から何かを望んでいるような気がしたのさ」

 章三が使った『欲』という単語が、オレの心にピンと引っかかった。

 席の立ち際に聞いた矢倉の言葉が、ふいに耳に蘇える。

『葉山のために一生懸命になるギイを見るのが嬉しいんだ──』

 オレを見ているのが嬉しいと言う矢倉。
けれど、あれはきっとオレのことを言っているわけではないのだと思う。
おそらく自分自身とオレを重ねていたに違いない……。

 何も考えていないように見えても。何もしていないように見えても。
それでも、矢倉柾木はちゃんと八津宏美の幸せを守っている。

 何もしない。何も行動に移さない。
それが相手の幸せに繋がることなら、きっと矢倉はこの先もずっと、空っぽの自分自身を演じ続けるのだろう。

 だから、せめて。
努力する姿を見せられない自分の代わりに、努力するオレを矢倉は見たいのかもしれない。

 託生のためにどこまで何が出来るかはわからないが。
それでも、たった一枚の写真のためにアタフタするオレの姿は、もしかしたらほんのわずかかもしれないが、矢倉を幸せにしているのかもしれないという気がして、オレは一度だけ食堂を振り返った。

 矢倉の馬鹿騒ぎする笑い声がここまで響いてくる。

 空っぽの笑い声に聞こえて、すごくせつなかった──。





 さまざまに恋がある。想い方も十人十色。

 矢倉は矢倉にしかできない恋をしている。
それは、誰にも真似のできない恋。

 そして、オレはオレの恋をするしかないのだ──。





 部屋に戻ったオレは手早くシャワーを浴びると、早々にベッドに横になった。

 オレが珍しく早寝を決め込んだことに、章三は「殊勝な心がけだ」と言ったきり、特に何も言ってこなかった。
オレはほっとしながら、じっと目を閉じていた。

 しかし困ったことが起きた。一時間が過ぎても二時間が過ぎても、いくら時間が経っても一向に眠気が訪れないのだ。
それもそのはずだ。こんなに早い時間に寝ることなんて最近では皆無だし、夕方、短時間とはいえ昼寝をしてしまっている。
簡単に睡魔が訪れてくれるはずがないのも当然だ。
それでも章三に心配かけるわけにもいかなかったので、ひたすらオレは狸寝入りを決め込んだ。

 が、しかし、計画は予定通りには進まなかった。
突然のノックにじっと寝ているわけにもいかなくなってしまったのだ。
ドンドンと客人がドアを叩くその慌て具合からして、きっと突発的な問題が起きたのだろう。

 章三がドアを開けた。
同時にオレも一瞬にして覚悟を決める。

「ギイ、いる? いつものことなんだけど、例の上級生と葉山が揉めてんだよ。
相変わらず、葉山は葉山であの愛想の悪さだからさ。
とりあえず葉山は謝ったんだけど、上級生のほうは納得してなくて……」

 ドアのノブを手にしたままの章三が、オレをちらりと見返した。
目が、「おまえはそのまま寝ていろ」と語っていたが、そうはいかない。
事情を聞いてしまっては、『葉山』の名前を耳にした今、このままじっと寝ていられるわけがないのだ。

 オレは即座にベッドから下り、ドアに向かった。
パジャマ姿のオレに客人は一瞬、目を見開いて、「ギイ、もう寝てたのか。ごめん」と謝ってきたが、この際、そんなことなどに構ってはいられない。
詳しい状況を聞きだそうとオレはその同級生に話を促した。

 すると、諍いのもともとの原因は片倉が床に辞書を落とした音がうるさかったとかで、原因自体は大したことではなかった。
しかし、積もり積もれば山と成るとはよく言ったもので、何かと苦情を言うきっかけを待っていた上級生にとっては渡りに船だったのだろう。
実際、この学生寮は作りがしっかりしていて、物音を出したところで上下左右の部屋にそれほど伝わることはないが、それでも音がまったく伝わらないというわけではないから、これまでにも認識の相違でしばしば諍いが起きる時があった。
特に葉山託生は一年のくせにふてぶれしいと真下の部屋の上級生から目をつけられていたため、何かにつけて絡まれる機会も多く、そういう時はだいたい、同室の片倉利久が間に入って取り成しをするのだが、託生にちょっかいをかけるのが目的の上級生たちは、いつもそう簡単に退こうとしない。
級長としてオレが出て行って、その場を収めたことも一度や二度ではなかった。

 聞けば、今回、片倉は自分が悪かったと片倉自身が最初に謝ったらしい。
無用ないざこざは避けたいとの判断だろう。

 なのに、相手の上級生側は納得をしなかった。
「謝るつもりがあるならちゃんと謝れ」と言って、土下座を強制してきたというのはやりすぎだ。
それまで当たり障りのない態度で挑んでいた片倉が、「そこまでする必要があるんですか」と食い下がったらしいが、相手は更に「同室者同士の連帯責任だろう」と言って、片倉と託生のふたりに改めて土下座を強要したと言うのだから、完璧にこれは嫌がらせでしかない。
加えて、託生のほうが「わかりました」と抗いもせず、即座にその場で膝を折ろうとしたものだから、普段は穏和な片倉利久も切れてしまった──。
つまりはそういうことらしい。

 事情を聞きながら即座に着替えを済ませたオレに、「行くのか」と章三が声を掛けてきた。

「ああ、行かなきゃにゃらん」
「なら、僕もついて行く」





 章三と同級生を後ろに従えて、問題の当事者たちのところにたどり着くと、数人の野次馬の視線の先に、床に手を着く託生の姿が見えた。
片倉が、「託生、やめろ! そんなことするな!」と顔を赤くしながら怒っている。

 オレはその状況を前に、目の前がカッと赤く染まるのを感じた。
好きな相手が土下座をしている姿などというものを誰が見たいだろうか。
のちに、「怒気でギイの頭髪が立ち上がってた」と章三に言わしめたこの時のオレは、余程感情をセーブできずにいたのだろう。
怒りで手が震えていた。

「おい、あれ。崎だ」
「級長が来たぞ」
「うわ、ギイってば怒ってるよ」

 さまざまな方面からオレの到着を知らせる声がさざなみのように広がってゆく。
その声に、片倉や託生、例の上級生などの当時者たちも、こちらに気がついて振り向いた。

 ほっと安堵するように目を細める片倉利久。
それ以外の当事者たち面々は、射抜くようにこちらを見ていた。
託生は『なぜ来たんだ。迷惑だ』といかにも顔に書いてある。
上級生のほうは、『厄介なのが来た』といくらか怯んでいるのが見えた。

 みんながオレに注目している。

 オレは目に力を入れた。
床に着いた託生の手を間近に見て、ぎりっと唇を噛みしめた。

 とにかく、土下座をしている託生をオレは見ていたくなかった。
何よりも土下座を強要した元凶を許すつもりもなかった。

 自分でもだんだんと喉が重くなり、これから発するであろう声が地の底から湧き出るような低い声になるであろうことが、安易に想像できた。

──この場はどんな手を使ってもオレが収めてみせる。

 オレはそう心に刻んで改めて胸を張った。

 最初が肝心だ。嘗められたらおしまいだ。

「ギイ」

 章三がオレを呼ぶ。オレはひとつ頷いて、深くゆっくりと息を吸った。

 託生と上級生との間に入ったオレは、思いっきり叫んだ。

「いったい、これはにゃに事にゃんですか!」と──。





 じっとこちらを伺う生徒たち……。誰もそこから動けなかった。

 だが、そのうち託生の頬がピクピクと痙攣しだした。
堪えきれずに、託生がプッと息を噴きだす。

「ははは……」と声をあげて笑うその笑顔がとてもあどけなくて。
笑ってくれるならいくらでも道化になろうとオレは思ったのだった。

 だが、笑う託生を見て抱くぽかぽかとあたたかな気分とは反して、横から発せられる不穏な空気に身体の左側がひんやりしてくる。

「ギイ。おまえのそれはいったい何だ。口が回らなかったというわけじゃあるまい?」

 地響きのような声というのはこういう声か。そんなことを遠くに思った。
隣りを恐る恐る伺うと、ギギギと首をこちらに回して、章三がオレを振り返る様子が見えた。

 まさに能面のような、張り付いたような笑顔。

──目が据(す)わってるぞ、章三……。

 滅茶苦茶怖かった……。





 その後、オレには天国と地獄が待っていた。

 ニャンコ語と仮病がばれて、まず、オレに対する章三の甘さは綺麗さっぱり跡形もなくなった。
残ったのは、ほろ酸っぱい皮肉の応酬と風紀委員直伝の規則正しい生活指導。

 あろうことか、その後の数ヶ月の間、清掃当番の割り振りやその他の班行動において、オレは託生と同じ班になることはなかった。
担当場所も、託生が担当する場所とは反対方向が割り当てられ、誰かが裏で手引きしているとしか思えないむごい仕打ちを受ける羽目になった。

 ちなみに、その誰かに対してじとっと恨みがましい目を向けたところ、章三がニヤッと口元を緩めて、
「元気がなさそうだな、ギイ。風邪で喉でもやられたか? それともぐうの音も出ないのか?」
そう嫌みったらしく返してきた。
それに対し、「ふん、こんなことでへばってたまるか」と応酬するオレ。

 章三の当てこすりの露骨さに「確信犯め!」と苦々しく思ったものだが、おそらくあれは意趣返しに乗じた章三なりのギリギリの譲歩だったのかもしれないとも察せたので、オレはそれ以上藪を突かないようにするしかなかった。

 実はあの約束の日曜日、オレは矢倉から例の写真を受けとったわけだが……。

「ギイ、約束のものにゃ」
「もうニャンコ語は終わりじゃなかったのか?」

「いや、これはこれでなかなか楽しいんだにゃ」
「ま、おまえが好きでやってることだからオレはとにかく言うつもりはないが。
この写真に関してはすごく感謝してるよ。ホントにありがとう。大事にするよ」

 心から礼を述べながら、ささやかな幸せをオレが噛み締めていると、その提供場所に、
「ふうん、それがすべての原因か。余程、大切なものらしいな、ギイ?」
なぜか偶然現れた章三に受取の物的証拠をばっちり見られてしまって、オレは章三から思いっきり威嚇がこもった視線を投げつけられた。

「いや、なんだ。これはただの写真だぞ。文化祭の記念にと思ってだな……」
「ふうん。文化祭の記念に、ね……」

 オレなりに誤魔化す努力はしたのだが、あの時の感じでは誤魔化しきれなかった可能性のほうが高いんじゃないだろうか。

──バレても構わないと思っていたくせに。人間、いざとなると何を口走るかわからないものだな。

 オレはこの時、自分の身を護るために咄嗟にとる行動というものは、慌てた分だけ無計画で無謀なものになってしまう可能性が高いことを身に染みて知るのだった。

 どうやら恋とは限りなく人を成長させ、限りなく人の浅ましさを露見させるものらしい。





 その後も、オレが託生を見つめている時とか、気がつけばいつの間にか章三が隣りにいて、振り返れば章三とばっちり目が合ったりと、オレの恋路の要所要所に章三が出没するようになっていたので、オレが託生をトクベツに想っていることは十中八九、章三にはバレてるだろうと簡単に推測できた。

 だからと言って、章三に気付かれたのだとしても、それでオレの気持ちが変わることはないし、意外にも、このことに関して章三のほうからオレに何か言ってくる気配もないので、とりあえず今はこのまま放っておくことにしている。

 触らぬ神にたたりなしの精神でお互いが確信に触れないようにしているからこそ、今のところは穏便に日々を過ごせているのだろうが。

 正面切って腹を割った途端、あの章三のことだ。
「不純同性交友なんぞ絶対認めん」とおそらく鼻息荒くするだろうし、今でも接点が少なくて参っているのに、オレの気持ちが託生に知られて今以上に避けられたらそれこそまずい。
だから今はまだ、事を大きくしないほうがいいとオレは判断したのだった。

──とはいえ、正直、章三にばれるのは時間の問題だと思っていたんだよな。

 教室に行けばクラスメイトがいるし、部屋に戻ってもルームメイトがいる。
そんな生活の中ではプライベートなどあってないようなものだ。
オレの行動を注意深く見ていれば、章三ならいつかは気付くだろうと前々から覚悟をしていたし、あの章三のことだからもっと早く気がつくかとも思っていた。

 それでも、祠堂にいながらして祠堂の気風に染まることを毛嫌いしている章三だ。
同室の親友の想い人が同性のクラスメイトというのは、良識の塊である章三にとってすごく衝撃的な事実だったに違いない。

 ましてや、親友の想い人とは、あの人間嫌いの葉山託生なのだから──。



 そういえば、最近、気の毒そうな視線がぐさぐさと突き刺さってくる気がして、どうにも落ち着かない。
でも、どうやらそれは気のせいではないらしい。

「ギイはいらない苦労を背負い込む性質だな」

 突然、そんなふうに章三に声を掛けられ、オレは返す言葉に詰まってしまった。

 まったく、失礼な話だ。





「ギイ、風が出てきたな。窓を閉めようか」

 そう言って、窓の枠に手を添えた章三が、じっとそのまま動かない。
それを不思議に思って、「何だ。どうした?」と尋ねながら近付いた。

 すると、章三の視線の先に、つまり、窓の下を見れば、茂みの間を覗き込むように歩く託生の姿が見えた。

──何か落し物でもしたのだろうか。

 章三とふたりして真下を見たまま、しばらく様子を見ていると、そのうち横から意味深に、「行かなくていいのか?」と声がかかった。
「行っていいのか?」とオレが返すと、「僕の関知することではないな」とこれまた皮肉れた物言いが返される。

「じゃ、勝手に行かせてもらう」と踵を返すと、「物好きめ」とすかさず章三は後方射撃をしてきた。

 とりあえず、オレと章三はお互い個人的問題については口出ししないことで決着が着きそうだ。

 託生のことに関しては、章三がどんな矜持を持とうが精々諦めてもらうしかないと思っていたので、章三の『見ないふり』はまずまずの結果と言える。



 そして、意外な結果はそれだけではなかった。

 あれから託生がオレの顔をを見るたび、ぷっと吹き出す姿が目に付くようになったのだ。
それはすごい「棚から牡丹餅効果」とも言える。まさに幸運。矢倉柾木は福の神だ。
純粋に喜んでいいのか最初は悩んだが、それでもこれは小さな一歩には違いない。

 とはいえ、ニャンコ語が運んだ幸せの効力は、たった三日の命だったが……。

「ああ、すごく残念だ。もっと笑ってくれればいいのに」



『笑ってくれるなら何でもしよう──』

 あの時思ったことは嘘じゃない。

「頼むから、もっと笑ってくれにゃ」

 誰もいないところでニャンコ語をこっそり呟いてみたこともある。

 でも、もう遅い。魔法は解けてしまった。
オレを前にした託生は、以前のように、いかにも迷惑そうに見つめるばかりだ。

──こんなことなら、ニャンコ語で託生にたくさん話しかけとけばよかった。

 そう振り返っても後の祭り。

 それでもオレはすでにあの笑顔を知っている。そう、昔から知っていたと言ってもいい。
価値ある笑顔。笑わない葉山託生のあの笑顔を見てしまったら、もう気持ちが抑えきれない……。

 いつでも、あの写真のような笑顔を真横で見ることができたら、どんなに素敵だろう。
託生の笑顔に満ちた毎日がいつか訪れるとしたら、明日が来るのがすごく楽しくなるのに。

 託生が笑顔でオレを見る瞬間。その瞬間の継続がオレの幸せに繋がっている。
その至福の時間をいつかこの手にできるとオレは強く信じている。





 今日も託生は教室の隅で、誰とも交わることもなく、じっと窓の外に目をやっている。
ぼけっとしているように見えるが、それでも誰かが近付いたらパッと身を翻して警戒するに違いない。
 
 目の前にありながら届きそうで届かないところに大切なものがある。
その存在がこの瞳に映っているのに近付けば逃げてしまうのがわかっているから、オレはここから動けない。
それがとても口惜しい。

 とはいえ、行動を起こすにはまだ早い。それは自分でもわかっている。
今はまだ片想いに甘んじるしかないのだ……。

 だが、いつか──。その日を夢見て。
ひらひらと戯れる蝶を狙う猫のように今は小さく身を竦(すく)めて、最高のタイミングを計ることにひたすら専念するとしよう。
「今に見てろ。いつか、絶対手に入れてやるから」と内心、ぺろりと唇を嘗めながら。



 そして、今日もオレは託生の姿を追いかける。

「生憎、オレは諦めが悪いんだ」

                                                         おしまい


material * 空と雲〜sorakumo〜



*** あとがき ***

最後までのお付き合い、ありがとうございました。
「ニャンコ語約定」はいかがでしたでしょうか?

今回は矢倉柾木の八津宏美に対する片想いをギイの片想いと重ねながら、章三を絡ませてみました(笑)。
ギイの気持ちに気づいた当初の章三には前からすごく興味あったので、書いていてとても楽しかったです。

片想いってのはやっぱりあのジリジリ感がいいですね〜(笑)。
不安定だからこそ先行き気になって、余計惹かれてしまうのかもしれません。

そんな片想いを綴った今回の「ニャンコ語約定」ですが、
みんなが早く両想いになればいいなって思えるお話になっていたら嬉しいです。

なお、博多弁について、えみこさんにはとてもお世話になりました。
実は初稿では、矢倉の博多弁の台詞は、
「なんかなし、よーっと迷ったばってん、方言はやめたばい」だったのです。
初稿を読んだえみこさんが、それを直してくださったので(訳してくれたとも言う(笑)?)すごく助かりました。
「博多弁で語尾に『ばい』ってあんまりつけないんですよ。ふざけてわざと使う事もあるけど」
このアドバイスもすごく役に立ちました。
出身者のナマの声ってやっぱり貴重ですね〜♪
えみこさん、感謝です☆

by moro



moro*on presents


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なお、ルビー文庫「タクミくん」シリーズはごとうしのぶ先生の作品です。著作権などは角川書店様にあります。
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