つれないうしろ姿に、もどかしさばかりが募る。

 こんなにも好きなのに──。


遥かに遠い春



 お調子者で知られているにもかかわらず、大切な人相手には気が効いた言葉ひとつかけれるわけでもなく。
大事なことは喉の奥に潜めたまま、何も言えないで。
冗談で誤魔化して闇雲に笑いを誘って、うやむやにするのが常套手段。

「好きなんだ」と彼以外の者に言われたところでそんなものには意味がないし、一応の礼儀のつもりで「ありがとう」などと口にしたところで一ミリグラムたりとも思い入れなどありはしない。

「好きだぞ」なんて、からかい交じりなら照れもなく誰にでも言えてしまうのが、悲しいかな、今のところの自慢事かもしれなくて。
オフザケで抱きつくなんて相手構わず相手選ばず、日常茶飯事の毎度のことになっている。
何とも思ってない相手なら、何も気にする必要性がないから気が楽だ。
気が滅入ることも、後悔で落ち込むこともなければ、ささいなことを気にする義理もない。

 本気相手だと疲れるほどに一喜一憂するのに、この冷めた態度はどうだろう。

 ちゃらんぽらんの毎日で、近頃では自分でもつくづく感心するほど誤魔化すのが本当にうまくなった。

──まったくなあ、呆れるほどにこんな何の得にもならないところにばっかり才能を発揮しちゃって。
何やってるんだか。

 たったひとつの恋心を隠すための努力なら、しこたましていると言ってもいいかもしれない。

 そして、そんな努力をしているのは自分ひとりではないと知っているから頑張れるのかもしれない、と思う。

 そう、密かに誰かを想い続けているのは自分だけではないのだと、うすうすだが、それでも確信的に、矢倉柾木にはわかっていた。





 その、おそらく片想い連盟の同志ではずのギイが、いかにも外国の血が入っていると一目でわかる明るい茶色の透けた髪をなびかせて、色素の薄い綺麗な顔に笑みひとつ浮かべることなくのらりくらりとやって来た。

 矢倉の視線の先にはギイともうひとり、男が向き合っている。

──さて、ただいま現在進行形のこの状況をどうするべきかねえ。

 こんな状況、以前にもあったなあ、と数ヶ月前のことを思い出す矢倉柾木だった。

「突然呼び出してごめん」

 矢倉には、わずかにギイの眉が動いたのがわかった。

──おまえの気持ちは読めてるさ。謝るくらいなら最初から呼び出すな、とでも言いたいんだろう?

 相手の男は緊張しているのか、ギイの微妙な表情の動きさえわからないようだった。

「いえ、こちらこそお待たせしてすみません」

 さすがにギイはこういう場面に慣れている。

──来たくもないところにわざわざ来てやったってとこだろうに。まったく、そういうところはお人よしだなあ。
勝手にこちらの都合を考えずに呼び出したのはあっちだろ?
待って当然、来てやっただけでも御の字だと思ってもらえよ。

 とはいえ、ギイの本性は強引な手腕を得意をする典型的な策略家だと知っている矢倉は、こりゃまるで狸の化かし合いだな、と内心、口笛を吹くのだった。

 相手の出方を互いに見ている。見極めようと努力している。
「恋は駆け引き」とはよく言ったものだが、この場合、うまく収めようとする両者の思いは同じでも、目指す方向はまったく違っているところがとてもおかしい。

「ええっと、驚くかもしれないけど……。あ、っと、その……。俺っ、きみのことが好きなんだ!」

 毎度のことながら、人気のないところに呼び出されてるなよ、と他人事ながら諭したくなる。
果たし状じゃない限り、この状況は誰にだって想像できたはずだろう、と。

 事実、ギイもこれから何が起こるのか知った上で待ち合わせ場所に来たのだから、はやりと言うべきか、驚いた様子は微塵も見受けられなかった。

 告白したところでギイの返事は決まっているのに、と矢倉は相手の男を不憫に思った。
自分の知っている限りの記憶をなぞってみても、ギイが色よい返事をしたことは今までに一度としてない。

 それに、告白される側であるギイこと、崎義一は、この手の告白に対しては百戦錬磨の達人だ。
告白する側にわずかな同情を覚えてしまっても、それは武士の情けというものだろう。

「申し訳ありませんが、オレは先輩のそういう気持ちには応えられません」

 ほら、やっぱり、と矢倉が忍び笑う。と同時に、
「迷惑なのはわかってるんだ。けど、ただ知っておいてもらいたくて」
そんなふうに続いて聞こえてきた男の台詞のその身勝手さに緩んだ頬が冷たく固まった。

 胸の奥底から何かが湧き出てきて、自分をどす黒く染めてゆくその感覚が息苦しい。
失恋決定の烙印を押される男に同情を覚えた自分がほんとに哀れに思えてしまう。
重くのしかかるその嫌悪感に辟易(へきえき)しながら、矢倉は目尻をわずかに釣りあげた。

 好きだから何をしても許されるのか。好きだったら何をしてもいいと言うのか。
好きだからこそ何もできないでいる人間もいるとは思わないのか?
この世の中、誰もがおまえを許し、そんな冒涜(ぼうとく)がまかり通ると本気で考えているのか?

──だから、気付かないのさ。ギイがわざわざ遅れてきたその理由に。

 待ちくたびれて諦めて帰ってしまっててもかまわない。
ギイは本気でそう思っていたはずだ。
ギイにとって、この呼び出しはそれだけの価値しかないのだとどうしてそんな簡単なことがわからないのだろう。

──何が、知っておいてもらいたくて、だ。
その程度の寂寥(せきりょう)な心狭さしか持ち合わせてないから、ギイの心中にたどり着けなくて当然なんだ。

「……すみません」

 ギイが謝る意味すら、きっと相手には伝わっていないのだろう。
自分には不必要な心など差し出すのなんかやめてくれとギイの目は叫んでいるのに、好きならどうして聞いてあげれない?

「えっと、あの! もしよかったら友達からでいいんだ。
お互いのことこれから知っていけば、またそういうふうな気持ちにもなるかもしれないだろ?」
「オレは安請け合いはしないことにしてるんです。
それにオレ、友人をそういうふうな目で見ることはありませんよ。
先輩はいつか気持ちが変わるかもしれないと思ってそういう提案を出してるんでしょう。
だとしたら、はっきり言って無意味です。オレにとって友人は友人です」

「で、でもっ! 先のことはわからないだろ? もしかしたらってこともあるかもしれないじゃないか……」
「確かに先のことはわかりませんが、今のオレの気持ちなら自分のことですのでわかります。
オレはあなたをそういう意味では好きではないし、この先、好きになろうと努力するつもりもありません。
すみませんが、これがオレの正直な気持ちです」

 さすがにここまで言われれば諦めざるを得ないだろう。
まあ、今日はまだ穏便なほうかな、と過去の修羅場を思い出して、思わず矢倉は苦笑いした。

「……いいんだ。告白できただけで満足だから」

 苦し紛れにだが、自尊心だけでも男は守りきったというべきか。

──こんなんで本当に納得してるのかねえ。

 そして矢倉は、続く男の台詞を耳にして、やはりと思った。

「でも、俺がきみが好きだってことは覚えておいて」

 告白できただけ満足だから、などと言ったばかりのその口で、覚えておいてなどとそんな無責任なことを言うのか。

──へえ。本当に覚えているだけでいいのかい?
お友達から始めてよしんば何とかなるって期待してたんじゃなかったのかね。

 そう意地悪くほくそ笑む矢倉の脳裏に、「嘘ついたらハリセンボン、飲ーます」のメロディがぐるぐる回る。

──アホらしい。
そんなトンチンカンな受け答えを未練たっぷりに言ってるんじゃ、好きだって言ったところで真実味に欠けるというものだろう?

 男がギイの態度に全然満足などしていないのは丸わかりだった。

 ギイに自分を印象付けることで、この先、瓢箪から駒を狙おうとしたのだろうが。

──そんなことしても無駄なのに。なあ、そうだろう、ギイ?

 ギイとは同類で同志で腐れ縁の仲だと矢倉は自負している。
好きな相手からは梨の礫(つぶて)で、いらない想いだけが寄ってくる。
そういう意味では似た者同士だと確かに言えたからだ。

 こんな実のない時間の過ごし方をしているギイがいかにも自分と重ねて見えて、情けないやら口惜しいやら。

 好きじゃないヤツからのいらない想いほどウルサイものはない。
おまえら、俺の気持ちはどうなるんだよ、と叫びたくなってもそんなこと言えやしない。
自分には本気の相手なんかいないことになっているし、そんな自分の想いを知らないからと言って、この真摯な気持ちが踏み滲まれるなんてのは許せない。

 ギイがかわいそうで、自分もついでにかわいそうで。

──だから、つい助け舟を出してしまっても仕方ないだろう?

 雑木林から身を出して、矢倉柾木はゆっくりと、でもさくさくと歩みを進める。

「あー、ギイかあ。人の話し声が聞こえてきたから誰かと思ったよ。
あ、もしかして何かの大切な打ち合わせ中だったりした?」

──ほら、こんなふうに、おせっかいをしてしまっても許してくれよ。

 お邪魔だったかな、と気遣う素振りをわずかに匂わせれば、三年の学年証をつけた上級生は、「あ、じゃあ、俺はこれで……」とあたふたしながら去ってゆく。 

 草を踏む足音が遠ざかったのを見計らってから、ギイは、まったくどうしようもないヤツだなと今にも言わんばかりに頭を振って、
「矢倉。おまえ、確信犯だろう?」
そうしてはじめて、ギイは本当の意味での笑顔を見せた。

 ただしギイのそれは、ほとんど苦笑いに近い笑顔だったが。

「助けてやったんじゃないか。礼ぐらい言ってくれてもいいだろう?
まあ、ギイの場合、助っ人なんかいらなかったろうけどね」

 肩を竦めながら顎をしゃくって応じると、ギイも改めて目を細めて笑う。
夕陽の柔らかい日差しを受けて、ギイの淡い色彩の髪は明るい金色に輝いて見えた。

「なあ、ギイ。どうして人間考えることって同じなんだろうな」
「何のことだ?」

「実はさ、十分ばかり前に、俺もこのつい先のところで二年生にコクられたわけよ。
同じような時間、同じような場所、同じような場面。ほら、前にもこんなことあったろう?
祠堂は広いってのに、なんでこうも重なるかね」
「ふたりっきりになれる場所と時間とか、状況に相応しい選択を常識的に考えたら、自然とこうなったってことだろう?」

「んー、そりゃあね、それはそうなんだろうけど。
俺が言いたいのは、ただ好きでいるってことを知ってもらえたらいいなんて、そんなわかりきった嘘をさ、よくもあんなふうに笑って吐けるなあってさ」

 俺には絶対無理だから、と矢倉は両手を組んで空に向かって上げ、気持ち良さそうに伸びをしながら、「ホント、すげえよな」と一言、本気半分呆れ半分で誰に聴かせるでもなくただ当てもなくぼやいた。

「でも、相変わらずで安心した」
「何が?」

「ギイってこういう時、絶対『ありがとう』とか『嬉しい』とか言わないからさ」

 崎義一という人間は、その華やかな外見からしてとにかく人目を集めた。
ギイを取り巻く環境はその外見だけに限らず誰にとってもとても魅力的で、誰もがギイを目で追ってしまう。

 幸か不幸か、ギイにとってはそれが日常茶飯事で、何を勘違いしたのか、ギイに告白するものが湧き水のように出てきては、その都度見事に粉砕してゆく。

「そんなの、受け入れられないのがわかってて言う言葉じゃないだろ。
本気の気持ちに対してはせめて本音で向き合わないと悪いだろうが」
「まあ、確かになあ。それでもやっぱり、つい口が滑ると言うか、情に流されて口から出てしまうと言うか。
俺はどっちかっていうとそっちだな。
俺が言いたいのは、ギイみたいにはっきり線を引いて固辞するのはなかなか大変だってことさ」

 できそうで意外にできないことはとても多い。

 でも、ギイという人間は、常に努力して行動し、そうやっていつも自分の心を堅い壁で覆って、頑なに守ろうとしている。

「実はギイの鉄壁は、俺の憧れだったりするし」

 ギイのように強くなれたらいいと望むのは、なかなか悪くないと実際本心から思ったりする矢倉だった。

 英語のThank youはこういう場合、すごく便利だと思う。
いつでも気軽に言えてしまうし、「どうもありがとうございます」なんて言おうものなら、絶対言うぞ、今度こそ言うぞ、と気負わない限りなかなか言えないものだ。

──いいとこ、「おおきに」くらいがせいぜいだろうな。短いし、お気楽そうだし。

 本当に、関西弁のノリですべてが「おおきに」で済ませればどれほど楽か。

 いらない本気の気持ちほど、重いものはないのだ。

「あーあ。
ほんのさっきのことなのに、告白してきた相手の顔の輪郭、すでにぼやけちゃってる俺ってやっぱり薄情者?
こんなツレナイ俺には、『そりゃあ、ありがとさん』くらいのいかにも軽薄そうなのが似合っちゃってるのかもなあ」 

 軽さが売りの矢倉柾木。誰もがそう評価する。

 それはそれでいいのだと思う。
それもまた確かに自分の一面なのだから。

 それでも、このギイには誰も知らない矢倉柾木というものをわかっててほしいと思ってしまうのは、同じような想いを抱く仲間意識から来るのだろうか。

「誰かが自分を好きでいてくれて。それがオレ自身に繋がるってものなら、今のオレには到底無理だけど。
その気持ちには応えられなくても、少しでも自分の魅力を見つけくれたってことに対する感謝の気持ちとしてなら礼を尽くしてもおかしくないだろう?
矢倉が誰かに好かれて自分を保てるというのなら、やっぱり『ありがとう』は基本的にいいんじゃないか?」

 そういう受諾とは違う「ありがとう」もあっていい、とギイが言う。

 ギイという人間の口から出た言葉だというだけで、
「ああ、そうだよな。そういうのもアリだよなあ」
どこかで自分を許せる気がして、少しだけ気持ちが楽になった。

「片想いってつくづく嫌なもんだよな」
「何を今更。それでも失恋するよりはまだマシだろう?」

 こんな時、好きだという気持ちを伝えなくていいのか、なんて、ギイは矢倉に絶対言わない。

 そんなヘマを、ギイは絶対しない。

 そんなことを言おうものなら、そっくりそのままその言葉をギイに返してやるよ、と矢倉がそう言うのがわかっているから、自分から墓穴を掘ることは絶対にない。

「いつか……」
「ん?」

「あ、いや……何でもない」

 いつか──。

 いつか、ふたりきりのこんな場所に好きな相手から呼び出されて、心から、ありがとうって言えたらいいな。
そう言おうとして、矢倉はやめた。

 ギイの想い人は人間嫌いで有名な同級生で、この計算高いギイでさえ手を焼くほど打つ手のない、難しい相手だったのを思い出したからだ。

 こんなふうに呼び出ししてくれと願うより、まずは気軽なおしゃべり相手でいいから、どうかそばに寄ることを許してくれと願いたくなるような、ギイはそんな辛い恋をしている。
相手が相手だから、ギイの恋はとにかくお先真っ暗で。
これまたよくぞそんなレアな人間をわざわざ恋の相手に選んだものだと感嘆したくなるほどの、まさに難攻不落の相手だった。

──さすがにギイ。ある意味、どこまでもチャレンジャーだよな。

 それでもこんなふうに凪いだギイの横顔を見ていると、人間嫌いのアレを落とせる可能性なんぞまったくのゼロのはずなのに、限りなくゼロに等しいとか、もしかしたらゼロじゃないかも……などと、だんだんと気持ちが揺れてゆくから不思議なものだ。

 もしも、あの人間嫌いと並んで歩くギイ、なんて夢のような場面を見かける日が来ようものなら……。
いつかは自分も──。そんなあたたかい春の夢を、再び見てもいいだろうか。

 わざと自ら失着を打って、退路を断った自決覚悟の孤立軍となった矢倉にとって、ギイは先陣を切る一縷の希望の光のようなものだ。

 夢を抱いていいのだと信じたい。でも、信じきれない。
夢を見るには朧気すぎて。夢見る夜は多すぎた。

 この想いを胸に抱いて眠る日々はこれからも続く。
きっとそれだけは変わらない。

 簡単に諦められるほどの軽い想いではないから、このまま時間だけが過ぎ去ったとしても、それはそれで仕方ないとも思ってる自分がいる。

──俺たちに春、ねえ……。まあ、ほど遠い話だな。

 祠堂の冬はとても寒い。
風も冷たく、山地独特の澄んだ空気が凛と肌を凍らせる。

 大事な人とは、ここがとても寒いところだと知る機会もなく離れてしまったから、温め方もよくわからない。
ふたりでいる夏の暑さも知らないまま、秋のわびしさもひとりで乗り越えた。
そして春は、矢倉柾木にとって鬼門でしかなく。
それでも苦い季節は毎年やって来るから、それなら早く過ぎ去ってくれればいいのにと願うまでだ。

──どうせなら、早く祠堂を卒業させてくれればいいのに。

 祠堂の冬は厳しいから春の有難みがよくわかるぞ、などと誰もが言うけれど、
外気温が上がったところで、この身体も心も冷えたままなのなら、そんなあたたかみのない春なんて恋しいとは思わない。

「さて、そろそろ帰るとしますかな、崎の旦那。
いくら本格的な冬にはまだ早いっつっても、このまま夜までこんなところにいたら風邪引いちまう」
「そういや、風が出てきたな。それじゃあ、矢倉を風除けにして帰るとするか」

「何だそりゃ。ギイって結構セコイよな。オレのうしろからついて来いくらい言ってくれてもいいだろうに」
「矢倉こそ。神経使ってお疲れサンくらい言って、オレを労わってくれてもいいだろう?
代わりにおまえの背中はオレがしっかり守ってやるからさ」

「おいおい、不意打ちでも来るってか? 物騒な話だな」
「自分で言ったんじゃないか。何しろ矢倉はツレナイ男らしいからな。
これからの季節、日が早く暮れるから夜道はますます危なくなるぞ」

 闇夜はお互い気をつけような、などとおどけるギイがもの悲しい。
その台詞にこめられた真実が見え隠れするものだから、「馬鹿言ってんなよ」と呆れ交じりの溜息が出てしまう。
そして、ギイの言葉につられて、ついうしろを振り向いてしまうそんな自分の軽率さが疎ましくもあり、微笑ましくもあり。

 ふと横を歩くギイを覗けば、目だけ笑わずに、「ただの冗談さ」と言ってのける。

「おい、ギイ。ちょっと怖すぎ」

 正直のところ、こんな時のギイはとても苦手だ。
ほのかに匂わすギイの荒(すさ)んだ部分はとても暗く、彼が投げやりになった時の姿が見え隠れしてそら恐ろしい。
とにかく、ヘタな想像は打ち消すに限る。

──何にしろ、実はギイもいっぱいいっぱいってとこなんだろうな。

 好きで片想いなんて、するヤツなどいない。

 片想いなんて大嫌いだ。

「マジに寒くなってきたな」
「ああ、早く寮に帰ろう」

 いつまで、こんな不毛な時間を過ごせばいいのか。

 ひとりで過ごす長い夜ほど辛いものはないというのに。

 祠堂の春はまだまだ遠い。

 ましてや、自分たちの春など、遥かに遠い──。

                                                         おしまい


material * Coco



*** あとがき ***

最後までのお付き合い、ありがとうございました。
当サイト、moro*onの70000hits記念作品「遥かに遠い春」はいかがでしたでしょうか?
さて、今回はギイと矢倉の片想いのお話となりました。

このお話の舞台は一年の初冬。
この後、ギイは矢倉よりも一足早く春を迎えます。
矢倉の春はそれから一年後の三年生の時ですからまだまだ先ですね。

最後に、このお話を少しでも気に入ってくださったら嬉しいです。

いつもご贔屓にありがとうございます。
これからも、moro*onをよろしくお願いします。

by moro



moro*on presents


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なお、ルビー文庫「タクミくん」シリーズはごとうしのぶ先生の作品です。著作権などは角川書店様にあります。
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