卒業式を無事終えた三年生が学生寮を去ってゆく。
三月の青空の下、ひとつ年上の先輩たちは涙と笑顔を散りばめながら三年間の高校生活に背を向けて、すでに新しい日々に足先を向けている。
そんな感慨深い季節が、いつの間にかこの山奥の祠堂学院高等学校にも訪れていたのだと、ぼくの心にじわじわと染みていったのは、散り散りに去ってゆくうしろ姿を見送ったある晴れた日のことだった。
繰り返される日常の中、一、二年生しかいない寮では、食堂で目に付く空席はちろんのこと、ふと気付くと、人が集まりやすい談話室や学生ホール、行き来の激しい階段や廊下での喧騒もどことなく寂しそうで、いかにも「別れの三月」を滲ませていた。
廊下などで擦れ違う生徒たちをふと振り返ると、やっぱり見知った顔が消えていて、そんな瞬間、楽しい外出に置いてきぼりを食らった留守番隊のような気分をふいに味わう。
四月が来れば、ぼくらも最上級生になる。
一年が終わり、また新しい一年が始まる。
常に季節は巡り巡って、また一年が繰り返される。
けれど、ぼくにとってこの一年は、とてもじゃないが、いつもと同じ時の流れの繰り返しとは到底言えないトクベツな一年だった。
思い返せば、嬉しい誤算の日々だったとしみじみ感じ入ってしまうほどに、感動溢れる出来事の連続だった。
だが、そうは言っても、思い出を振り返って寂寥の感に浸るだけではいられないのも、この時期ならでは、で。
「託生、来期用の名簿の原紙、委員会数分コピーしてくれ。
ああ、三学年分必要だから各委員会ごとに三部ずついるか。三掛けで頼む」
「えっと、枠だけのヤツだよね? 予備も少し用意しとく?」
「当然。原紙はちゃんと残しとけよ。それとコピーしたら、委員会名と学年を記入しておいてくれ」
学年末は新年度を迎える準備でどこの委員会も忙しい。
ひょんなことから二年D組の副級長になったぼくだったが、同じクラスの級長であるギイが評議委員会の委員長に就任した影響で、ギイに比べればわずかだろうが委員会の雑用がいろいろ回ってくるようになっていた。
評議委員会はクラスの級長と副級長で構成される委員会なので、年度が替われば構成委員ももちろん変わる。
ただし、その顔ぶれを見るところ、経験者が再び新クラスから選出されて評議委員会に顔を出すのは珍しくないことらしいけれど……。
ぼくの場合は誰かさんの私情が絡んでの副級長就任だったので、来期は多分ここにはいないだろう。
とにかく、評議委員会としては、四月から活動開始の各新委員会を統(す)べる準備に、例年この時期はとても忙しいのだった。
「政貴はこっちを頼む。決算書は生徒会の会計に渡してくれ。
生徒会のほうの決算と合わせて会計監査に回す手筈だ」
「じゃ、コレは生徒会室行きだね。一応、コピーとっておこうか?」
「ああ。監査のハンコを貰ったらそっちを残して、未ハンコのコピーは破棄だ」
「了解。そしたら学校側と生徒会に提出する分をコピーするんだよね。
監査に必要なのは領収書を貼り付けたノートと支出の明細記録、,と。
生徒会に持って行くのはそれくらいかな?」
「充分だ。そういや、会計監査は校長室で行われるのが恒例らしいぞ。お茶付きでさ」
「へえ。優雅だねえ。でも、完璧な密室状態なわけだ」
「どこにも干渉を受けないのが監査だからな。
さてと、あとは引継ぎ書類を必要部数コピーすれば何とか形になるかな」
「やっとだね」
「ああ、やっと一区切りだ」
評議委員長のギイと副委員長の野沢政貴はその人望と実力で、各委員会の総元締めであるこの評議委員会を、この半年とてもうまくまとめて来た。
後期に入ってすぐ、ふたりは三年生から評議委員会を引き継いだ。
優秀かつ個性豊かな、祠堂でもトップクラスの人材(ぼくは除く)を集約し取り締まる重責を平然とこなした上、多大な期待に対し充分な結果を残してきたこのふたりは、共に、その大任を担いながらも充分な余力を残せる鉄の心臓の持ち主だった。
ギイは当然のように人を動かし、その人の使い方がこれまたとても手際がいい。
本人曰く、相手の技量にあった仕事をちゃんと振り分けるのが基本らしいのだが……。
そのギイを上手に補佐して、ギイの仕事をより円滑、速やかにコトを進めてきたのが野沢政貴だった。
「託生、コピー終ったか?」
「あ、うん。もうちょっと」
評議委員会という、去年のぼくには雲の上の存在に実際我が身を置いてみて、ぼくは初めて学校という集合体の全体像を垣間見ることができた。
規律を守りつつ、生徒自身が企画し運営する。
生徒にすべて委ねられたその活動は、誰かにやらされているという受身的な意識に慣れやすい集団生活の中で、自分たちが自主的に行動を起こす楽しさと自立心を育てるのに役立っていた。
生徒会が全校生徒をまとめ、評議委員会が各員会をまとめる。
二者の立場は歴代の活動の中、しばしば口論に発展したことも多いらしいが、それらも生徒による自主性が発展した結果だと思えば容易に納得できることだ。
よりよい方向性を定めるため、それぞれが努力している。
例え、口論となって、たまに花火を散らすことになったとしても、それだけひとつのことに熱情を捧げられるというのは、「昔は良かった」とすぐ青春を振り返りたがる大人たちからすれば、すごく羨ましい話なのかもしれない。
生徒の自主性を掲げるその生徒会と評議委員会というトップクラスの人材の巣窟の中でも、特に我が祠堂の顔となるのが生徒会長と評議委員長である。
ギイはそのひとりとして、ひとりひとりの意見を拾いひとつの道筋を切り開く、そんな重要な立場にいた。
彼が忙しいのは今に限ったことではない。
学校が長期の休暇に入れば、学生の身の上と言えども仕事人と働いているギイだ。
その手腕をこの祠堂でも充分に発揮しているわけだが──。
けれど、二年生でさえこの活躍と忙しさである。
これで三年生になったら、と思うと想像するだけで怖い。
ぼくはともかく、進級後のギイの日常はこの一年間に輪をかけたような多忙なものになるであろうことは目に見えているからだ……。
来月、ぼくらは三年生に進級する。
それは、今の寮の部屋割りが変わることを意味する。
ぼくこと葉山託生と崎義一ことギイは今年度同じ部屋だったので、当然、来年度はお互い別のルームメイトを得ることになる。
この一年がすごく楽しい一年間だったからあまり考えたくなかったけれど、こんな生活もあとわずかだと思うと、ずっしり気分は暗くなってしまう。
寮則に、一度同じ部屋になった者とは二度と同室者になれないというのがあるが、今更ながら本当に恨めしい。
見聞を広めるため、が理由らしいが、ぼくにとっては理不尽な一文に他ならない。
「寮則って一体誰が作ったんだろう」
誰でもいい、この三月中に改正してくれ、が、目下ぼくの最大の願望だった。
春休み中、学生寮では階段長の選出が行われる。
生徒の人気投票みたいなものだが、三年生の中から各階段ごとにひとりずつ、計四人の階段長が「身近な相談役」として選ばれる。
階段長には通称ゼロ番と呼ばれる個室が与えられ、いくつかの権利と優遇も用意されているらしい。
そしておそらく、いや絶対、ギイは階段長に任命されると思うのだが──。
現評議委員長のギイが階段長を兼任するのも断るのも、また評議委員長を退いて階段長の任に専念するのも、それは個人の自由だ。
けれど、階段長を断った場合、どちらにしてもふたり部屋が原則である寮生活において、ギイは新しいルームメイトを得ることになる。
祠堂のサラブレッドと名高いギイの隣りの席に悠然と座る赤池章三。
一年生の時のギイのルームメイトだった彼は風紀委員長にして、今や自他共に認めるギイの相棒である。
二年生になってギイと同室になったぼくは、章三に言わせれば、「祠堂の七不思議に匹敵する怪奇現象」でギイの恋人の座にいるわけで……。
平凡な一生徒でしかないぼくがギイを独占していることは今でも信じられないことだが、コレが現実なのだから仕方がない。
──事実は空想より奇なり、と誰が言ってたのやら。
とにかく、ぼくはそんな幸運を手にしつつ、この一年間を過ごしてきた。
でも。
その一年はもうすぐ終る。
昨年度は親友、今年度は恋人。
それなら、来年度は?
ギイの次のルームメイトには一体どんな席が用意されているのだろう?
「僕さ、今度は葉山くんと同室になりたいなあ」
「え?」
評議委員会の雑用が一段落すると、ギイは相変わらずの多用でどこかへ出かけてしまった。
ぼくが委員会活動日誌を書いていると、生徒会室から野沢政貴が戻ってきて、ぼくらは並んで学生寮へと帰ることになった。
「そりゃ、いくら希望したってなれるかどうかなんてわからないけどね。
ほら、来年はお互い今の同室者とはまた同じ部屋になれないじゃない?
だから今度は、葉山くんがルームメイトならすごく楽しいかなって思ったんだ。
それにきみだったら、アイツも納得するだろうしね」
政貴ははにかんだように目尻をわずかに赤らめると、少し俯いて、
「あんな大きな図体して心配性なんだよ、アレでも」
それから再びぱっと顔を上げると、誤魔化すように笑った。
野沢政貴の同室者であるひとつ年下の猛者は、その腕力と迫力で圧倒的存在感を示すそんな屈強な外見に反して、超ロマンチックなオトメ心で染まりきった優れた(?)感受性と繊細な神経を持ち合わせる男だった。
「ははは、そうでした。実はああ見えて、彼ってすこぶる神経細やかなんだよねえ」
野沢政貴をとても大切に想っているのはハタから見ててもわかるほどのベタ惚れで、きっと今度の部屋割りのことにしても少しのことでも気に病んで、あれこれ心配しては苦労性を発揮しているのだろう。
彼の気質からして、来月の部屋割りによっては、毎日、政貴の部屋に通い詰める意気込み充分な様子が、政貴のノロケからもちらほらと伝わってくる。
でも、もう二度と大切な恋人を誰にも触れさせないと心に誓った彼ならば、その行動は当然のことなのかもしれない──。
そんな彼の純粋な想いを知っているからこそ、政貴はぼくに、「同じ部屋になれたらいい」などとを言ったのだと思う。
ぼくなら、あの猛者が目くじら立てることはないだろうから。
「今度の部屋割りって、波乱万丈、無情無慈悲なお沙汰が出そうで怖いなあ」
はあ、と深く溜息をつくぼくの隣りで、
「地獄の沙汰も金次第って言うけど、さすがに天下無敵のギイもこればっかりはどうにもならないようだしね」
野沢政貴がぼく側の事情を汲んでくれながら、大富豪の跡取りでもこの世には不可能なことたくさんあるよね、と説いた。
──もうすぐ、ぼくとギイは別々の部屋を割り当てられる。
「例外なんて絶対ないようだしねえ」
そして、政貴は近い未来訪れるはずのその冷たい現実を見越した言葉をそう口にしながらも、付け加えるように、
「でもさ、ギイと葉山くんなら大丈夫だよ」
はっきりと、微笑みながら言い切った。
「まずあのギイだし。ましてや、その相手が葉山くんだから」
「へ? ギイはともかく、どうしてぼくだと大丈夫になっちゃうわけ?」
野沢政貴のギイへの信頼は確固たるものであることは重々知っていたけれど。
「だってさ、ギイがきみをほっとくわけないよ。
かわいい錦鯉は自分んちの池の中で泳がしたいタイプじゃないか、ギイってさ。
敷地内では猫は厳重に立ち入り禁止。
仮に錦鯉が水路で迷って外に出ようものなら、周辺の土地を買いあさってでも池を増築して、大切な鯉が自然に安心して暮らせるように徹底的に画策するはずだよ」
「何だか息苦しくなりそうな話だなあ」
いつだってギイの掌の上であたふたしている、そんな自分を不甲斐なく想像しながら、ぼくが眉間に眉を寄せてそう言うと、
「それだけギイが重度の心配性ってことさ」
さっきのお返しだよ、と先程ぼくの評した「すこぶる神経細やか」の敵討ちだと政貴はふふふ、と笑った。
「大切な人と離れるのは誰だって平気じゃないんだ。怖いし不安だよ。駒澤だけじゃない、僕だって。
それに多分、ギイだって。
でも、大丈夫だって信じなきゃ、大丈夫なものも大丈夫じゃなくなってしまうじゃないか。
それに葉山くんは今だって『息苦しくなりそう』ってはっきり言えてるじゃない?
あのギイに対してそれだけ言えるってこと自体、自分を殺さず自然体でいられるってことだしね。
それって結構難しいと思うんだよ。でも、葉山くんはちゃんと今まで無理なくしてのけてる。
だから、ギイと葉山くんなら大丈夫なんだよ」
もちろん、僕らもね、と揺るぎない自信を胸に、政貴はしっかりと前に向いて歩いていた。
そして、学生寮の玄関に着くと、
「それじゃ、お先に。何しろ心配性の図体の大きいのがまだかまだかと僕の帰りを案じてるだろうからさ」
政貴は一瞬片目を瞑って、手を振りながら幸せそうに足取り軽く階段を上がって行った。
「誰だって平気じゃない、か……」
ぼくだけじゃない。
野沢政貴と駒沢瑛二、それに他の友人たちの中にも、気の知れた同室者と離れがたく思っている者はきっと多いはず。
気の合う者たちほど、新しい同室者とうまくやっていけるかどうかの不安よりも、まずは、今まで築いてきた親しさを離れてもそのまま保てるだろうかとお互いの距離間を案じるもの──。
三階にあるぼくとギイの慣れ親しんだ部屋に足を踏み入れると、開け放したままの窓からまだ春には冷たい風が吹き込んで、緩やかにカーテンを揺らしていた。
過ごし慣れた部屋を見渡せば、経済雑誌と科学情報誌が揃えて置かれたギイの机が目に入る。
視線を横にずらせば、英和辞書と文房具が昨日の宿題で使ったままになっている、少し散らかったぼくの机。
朝慌てて着替えた形跡の残る皺だらけのパジャマがぼくのベッドの枕元に丸めてあって、それらひとつひとつに生活感が滲み出ていた。
今更ながら、この一年間ずっとこの部屋で暮らしてたのだと痛感する。
「まだ遠いと思っていたのに……」
思い出がたっぷり詰まったこの部屋にも、春は確実に近付いていた。
ふざけ合って、笑い合って。喧嘩して、許しあって。
泣いて、迷って、悩んで。抱き合って、愛し合った。
この部屋には、数え切れないほどのたくさんの思い出が詰まっている。
ここから巣立つぼくたちだけど。
いつだってここに──。
いつでも、ここで過ごした今のこの気持ちに戻ってこよう。
「託生、帰ってるか?」
ノックもなしに部屋に入ってきたギイが、
「夕飯食べに行こう。託生が悠長にしているからもう混み出してるぞ。
まったく、おまえがそんなだから、いつだってオレがこうして呼びにこなきゃって思うんだよな」
制服の上着をベッドの上に放り投げながら、急ごうぜ、とぼくの腕を取る。
「わかったってば。でも、ギイ、夕食はちゃんと生徒の数だけあるんだし、逃げないよ?」
熱心に誘うギイの態度に呆れながら、
「そんなにお腹がすいているのかい?」
そうぼくが尋ねると、ギイがわずかに口を尖らして、
「別に。そういうんじゃないさ」
拗ねたように腕を緩めた。
ギイはちらり、とぼくのほうに視線を向けると、意を決したように、
「食堂に限らず場所がどこでもさ、託生をどこかに連れて行く時って、オレ燃えちゃうんだよ。
ちゃんと連れて行かなきゃって、いつにも増してこう使命感がメラメラっとさ」
一気にしゃべると、期待と反省と羞恥──多くの複雑の心境をありのままに描いた表情を浮かべては、
「オレ、ヘンなんだよ」
最後には吐き出すように、託生といるとおかしくなるんだ、と小さく呟いた。
「馬っ鹿だなあ、ギイ」
誰だって好きな人と一緒にいる時はヘンになるんだよ、と心で呟きながら、くしゃり、とその淡い髪を無造作に乱しつつ、
「そんなの全然ヘンなんかじゃないよ」
ぼくが笑って応えると、コイツやったな、とギイがぼくの頭を軽く小突いた。
「オレのこと、馬鹿なんて言うのおまえくらいだぞっ」
すぐにいつのも調子に戻ったギイは、ほのかに顔を赤らめながらも、鋭い視線で、
「託生を連れて歩くの、オレ、すごく好きなんだよ」
怒鳴るような大声でぼくに向かって力強く叫ぶ。
怒鳴られて、最初はぼくも驚いたけれど、ギイの真剣な様子に感化されて、
「ぼくもだよ。ギイと歩くの恥ずかしいけど、でも嬉しいよ」
精一杯の照れを我慢して、勇気を出してそう口にしたのに、
「オレと歩くの、どこが恥ずかしいんだよっ」
言ってみろ、話してみろとギイは怒ったように訊いてくる。
まるで駄々を捏ねる幼児のような執拗さ。
「コレがあの天下の評議委員長サマ、なんだもんねえ」
目の前にいるのは、さっきまでの凛々しい仕事人とは打って変わっての、感情剥き出しの我が儘なぼくの恋人。
こんなギイを一体誰が知っているだろう。
ぼくだけに見せるその拗ねた表情に向かって、
「食堂に行くんだろ? ほら、手を繋いであげるから、一緒に行こう?」
右手を差し出すと、痛いくらいに力一杯握り返された。
いつだって、ギイはたくさんの視線を浴びながらでも悠然と歩いて行けるけれど、目立つことが苦手なぼくがそんなギイに並んでゆくのは結構勇気がいるのだ。
ただでさえ人目を引くギイなのに、ぼくの恋人は公衆の面前でもこまめに口説いてくださるからますますもって始末が悪い。
そんなぼくの気持ちに気付いているのかいないのか、ギイは握り締めた手を優しく重ねるように繋ぎなおして、
「こうして歩くの、オレは好きなんだけどなあ」
ふっと穏やかに微笑みながらギイが感慨深げに口にする。
「おまえはオレと歩くの恥ずかしいんだよな?」
「うん、恥ずかしいね」
手を繋いで歩くのは余計にね。
「ホントは嫌なんだろ?」
「うん、すごく」
部屋が別々になるのがね。
「それ本心?」
わずかに震えたギイの声が彼の揺らいだ心を響かせる。
そして、俯いたぼくの顔を覗き込むように、ギイが近付く。
──不安なのは誰でも一緒なんだ。
だから、ぼく自身、すべての不安を取り除きたいのもあって、「えいっ」とギイの不意を突いて互いの額をぶつけた。
途端、勢いで、歯がぶつかるキスになる。
もうすぐ春が来る。新しい、ぼくらの一年がはじまる。
辛いこともあるかもしれない。苦しいこともあるかもしれない。
だけど、例え、この先戸惑い迷うことがあったしても、ぼくは頑張っていける。
ギイと一緒なら、きっと乗り越えていけるだろう。
ぼくらは歩むべき行き先を手探りしながら、少しづつかもしれないけれど、きっと一歩一歩前に進んでいける。
それこそがふたりでいる理由なんだと、ぼくは思うから。
ギイ。
きみが一緒だからこそ、ぼくは前を向いて生きていける。
ふたり一緒だからこそ、いつだって明日を夢見ることができるんだよ。
おしまい
material * NOION
*** あとがき ***
最後までのお付き合い、ありがとうございました。
当サイト、moro*onの10000hits記念作品「ふたり歩記(あるき)」はいかがでしたでしょうか?
今回は二年生三月の、ルームメイト解消間近のお話となりました。
三年生になると、ギイは階段長に就任、託生は三洲新という新ルームメイトを得ることになりますが、
このお話の二年生時点では、ギイも託生も先が見えない状態。
そんな別れの三月の切ない季節の中、不安が募るこの時期の、
「ふたりが一緒にいるのがとても自然な日常」が少しでも伝わるお話になっていたら嬉しいです。
それと。
この「ふたり歩記」、私には珍しく、キスシーンが入ってますねえ((笑)…と笑って誤魔化す)。
「アレをキスシーンと言うんかい!」と突っ込まれそうですが、ちゃんと作品中でキスしてるだけ、私にしちゃエライです〜(笑)。
ギイタクって甘々のふたりなのでキスシーンなんか珍しくないとお思いの方もいらっしゃるでしょうが、
私にそれを期待してはいけません(笑)。
ラブシーンってすごく苦手なんです。すごく照れますっ(笑)。
いつもご贔屓にありがとうございます。
これからも、moro*onをよろしくお願いします。
by moro
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なお、ルビー文庫「タクミくん」シリーズはごとうしのぶ先生の作品です。著作権などは角川書店様にあります。
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