ぼくがあげた辛子色のマフラーをそっと首から外す。
「おまえのほうが寒そうだから」
仕方ないな、と、ぼくの頭にすっぽりと被せて。
「これじゃあ、赤頭巾ちゃんだな。託生、狼さんに食べられたい?」
顎の下でマフラーを結びながら、ギイがくすくすと笑った。
くすぐったくなるような、そんな微笑みが止まらないのは、
きっとその遊ぶ手が止まらないからだろう。
「こうしたら、ねずみ小僧か。託生くん、オレの心はもう盗んじゃった?」
誰にもあげないでくれよ、とますます頬を緩めて、
ギイが鼻の下で結び直そうと戯れるが、
そうはさせるか、とばかりにぼくが抗うから叶わない。
「ギイ、いい加減に遊ぶの止めてよ。ぼくはホンキで寒いんだよ」
ギイのおふざけには付き合ってられない、と、
ぼやき混じりに頭に被さったマフラーを取ろうとしたら。
突然、ギイが厳粛な雰囲気を漂わせて。
「託生。頼むから、もうちょっとこのままでいてくれないか」
そう小さく囁きながら、真摯な瞳でぼくを射た。
ぼくの顔を他人(ひと)の目から隠すようにマフラーを頭に被せ直すと、
端のほうを指先で摘んで、ギイはことさらゆっくりと捲ってゆく。
ぼくの頬を冷たい空気に晒すその仕種が、とある一場面を思い出してしまうから、
ぼくは何だか落ち着かなくなる。
脳裏に浮かんだのは、ギイと一緒に出かけた映画館。
ラストシーンでは教会の鐘が鳴り響いていた……。
「こういうのも、いいよな」
落ちてくる唇に。
その瞬間、いつか見た白いベールと重厚なオルガンの音が重なった
この作品の著作権は、文・moro、イラスト・えみこにあります。
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