ナイショの恋


片想いが一番辛かったのは一年の時。
あの焦がれ続けた存在が目の前にいるのに、オレは見てることしかできなかった。
オレがどんな気持ちでいたかなんて、託生はずっと知らずにいた。

想いが通じ合ってからも、
「葉山のどこがいいんだか。ギイの気がしれないよ」
そんな他人の言葉に踊らされては、
「ぼくなんかのどこがいいのさ」
そんなふうに幾度となく自分を卑下して。
託生がどれだけオレを救い、オレを生かしているのか。
どれほどオレが憧れ、望み、欲したか。
託生は深く知ろうとしない。

このオレを、この世界に留めるだけの魅力がこんなにも随所にあるのに。
わかっているようで全然わかってない託生。

「だって、ギイにはぼくの気持ちなんかわからないよ」
そんなふうに意固地になって。
「愛してるよ」とオレがいくら告げたところで、
託生は自分を知ろうとしない。

オレと同じ、頑固者で強情者。

それならそれで、勝手にするさ。
オレが二度も同じ人間に恋したなんて、絶対教えてやるもんか。


「最後の砦」より回想



この作品の著作権は、文・moro、イラスト・えみこにあります。
なお、ルビー文庫「タクミくん」シリーズはごとうしのぶ先生の作品です。著作権などは角川書店様にあります。
当サイトのあらゆる内容及び画像を無断転載・転用・引用することは固く禁じます。