導きの先の海の底で


きみが導いてくれた……。
この温かい世界へ。
いつかここへ、と願って諦めていたこの場所へ。

きみが教えてくれた……。
この優しい瞬間(とき)を。
いつまでも手が届かないもの、と夢見ることさえ止めていたこの穏やかな日々を。


誰も信じられず、すべてを誰かのせいにして、
ぼくはいつだって自分の心から逃げていた。

きみをずっと信じたくて、それでも、きみの心が信じられなくて。
差し伸べてくれたその手は本当に絶対なものだろうかと、いつだって心は不安に揺れていた。

だけど、今は……。

「ねえ、知ってる?」

きみの優しさとぬくもりがとても温かくて心地よいから、
きみへの「好き」だけがしんしんと降り積もる。


誰かを大切に思うことも、誰かを悲しませたくないと思うことも、
きみがぼくに教えてくれたこと。
きみのその存在こそがぼくの闇を浄化してゆく。

きみはもう気付いているだろうか。

「好きなんだよ、ギイ」

まぶたの裏に、きみの透けるような淡い茶色の微笑みが浮かぶ。

「悔しいけど……」

今なら素直に言えるかもしれない。

「ギイよりもずっとぼくのほうが好きなんだと思うな」

そう伝えたら、きみは信じてくれるだろうか。
それとも、ただ抱き締めてくれるだろうか。

叶うなら、ぼくの呟きがきみの胸に深く沈んでゆけばいい。

そして、僥倖あふれるこの世界に導き教えてくれたきみの、その温かい腕(かいな)の中の海の底で、
ぼくはもがくように溺れてしまいたい。



この作品の著作権は、文・moro、イラスト・えみこにあります。
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