もうひとつのまつわりの日溜り


「好きだよ」と告げて、「ぼくも」と返される。
それだけのことに何年もかけて。

その深い焦げ茶の瞳の中に息衝く自分を見つけた瞬間、夢みたいだと思った。

ふたりでいると、楽しくて、幸せで。
それでも、切なさと苦しさを感じてしまうのはどうしてだろう。

好きだとか、愛しているとか、愛しいとか。
そんな、ただ甘いだけのものではなく。
もっと深いところで繋がっている、この感触。

満たされている、という幸福感を知ってしまった今、
知らずにいたあの頃にはもう戻れない。

「目を閉じて、ギイ……」

おまえがいるだけで至福の時間(とき)が繰り返される。

それが余りにも心地いいから、
その繰り返しが日常になってゆくごとに、
オレはどんどん我がままになってしまう。

「託生、もう一回」

それでも、今は、この日溜りの中で、
おまえが触れたその唇の温かさに酔いしれていよう。

この瞬間が永遠となるよう願いながら。



この作品の著作権は、文・moro、イラスト・えみこにあります。
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