きみに託すいつかの日


目を閉じて、迷いながら歩き出す。
目を開けた瞬間、きみが見つからなくて。
ひとり寂しいのは嫌だから、
目を閉じて、ぼくはきみの姿を思い浮かべる。

目を開けて、きみを求めて歩いてゆく。
目を閉じた瞬間、触れた人肌に。
きみがきみでぼくがぼくであるように、
目を開けて、ぼくはきみの心を祈り続ける。


たくさんの道がきみへと繋がり、たくさんの人がきみへと歩いてゆく。
きみはぼくに気が付いて、互いの手のひらを合わせようとしてくれる。

けれど。
手を重ねたら、途端、そのきれいな笑顔は消えてしまうと知っているから、
ぼくは一歩を踏み出せなくなる。

きみはただひとりしかいないのに。
きみの代わりはどこにもいないのに。
ぼくが必死に差し出した手は、多くの中に埋もれたひとつでしかない。


目を閉じて、ぼくは迷いながら歩いてゆく。
目を開けて、ぼくはきみを求めて歩き出す。


きっと、ぼくの懺悔は堕ちた心を天へと導き、裁きの祭壇にぼくを連れてゆくだろう。
きみのもとへと続く道はぼくがたどってきた道筋すべてをきみに晒して、
きみからの言葉を断罪となすだろう。

だからこそ。

きみを失いたくない、と揺れる想いを抱きながら、
ぼくはきみの姿を思い浮かて、きみの心をただ願う。

きみがきみのままでありますように。
ぼくがぼくのままでいられますように。
ふたりがいつまでも笑っていられますように。


目を閉じて、目を開けて。
ぼくはきみへと歩みはじめる。

いつか、ぼくの心をすべてきみに託すために。



この作品の著作権は、文・moro、イラスト・えみこにあります。
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