一日千秋の目覚めの日


「ぼくが読んだ本ではね、シンデレラはふたりのお姉さんに貴族のお婿さんを探してあげるんだ。
みんなで幸せになりました、で終るんだよ。子供心にあのラストは好きだったなあ。
そうそう、印象的なラストと言えば、『いばら姫』なんだけど。
あれって、眠ってるお姫さまは知らない人からキスされるわけでしょう?
それでいいのかなって思っちゃったんだよね。
ねえ、ギイはどう思う? ……って、あれっ? まさかギイ、寝ちゃったの?」

透ける淡い茶色の髪がふわりと揺れて、草の香りが一面に舞う。

「こんなとこで眠り込んだら風邪ひくよ?」

そう囁くように諌めつつ、
規則正しい寝息に、そっと自分の呼吸を合わせてみた。

見知らぬ王子にキスされて、眠り姫は本当に嬉しかったのだろうか、と、
今までずっと疑問に思ってきたけれど。

すぐそばの気持ちよさそうな寝顔を見ていると、
「もしかしたら、アレはアレでいいのかも」
そう思えてしまうから、自分の現金さにおかしくなる。

「ギイがいつかやってくるんだったら、ぼくだってずっと待ってるよ」

目覚めた瞬間、この人の笑顔がそこにある、とわかっていたら、
きっと百年待つのも楽しいかもしれない。

「でも、とりあえず……」

今は午後の授業がぼくらを待っている。

「ほらっ、ギイ! さっさと起きた起きた」

指先でギイの頬を突っついて、
今日のところは、ぼくが王子に成り代わろう。



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