変化自在なぼくの恋人


ぼくより背の高い人を抱き締める。

身長差を考えたら、普通、「抱き締められてる」という表現が似合うところだが、
ぼくの好きな人はぼくを抱き締めることも好きだけど、
ぼくに抱き締められるのも大好きだから……。

「たーくみっ。だっこして」

時々、彼は子供のように駄々をこねては、
ぎゅっとぼくに抱きついてくる。

「ギイ……。きみ、自分の年齢わかってる?」

ちょっと呆れたように睨んでやると、
「ボク、十歳。まだ、コドモだもん」
などと、おどけてくるから、つい、ぷっと吹いてしまう。

もしも、ぼくが一言、
「年下の恋人を持った覚えはないよ?」
にやにやしながらそう言えば、
きっときみは一瞬のうちに七年の時間(とき)を駆け抜けるのだろう。

そうやって、変化自在のぼくの恋人は、
瞬時にオトナにもコドモにもなって、いつもぼくを振り回すのだ。

そして、今回も……。

「たーくみっ、チュウして?」
「十歳のお子ちゃまにチュウはしませんっ」

ほら、途端にきみはオトナになった。



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