暗闇の、物音ひとつしない山の中。 灯りと言えば、仰いだ先に見える星くらいか。 「ハァー」 朱里が吐く息が白くもやる。 闇に慣れた目が、凍えるほど冷たい風に黒い髪がなびくのを見とめた。 「寒いな」 「ああ」 確かに寒い。 それでも、どんなに厳しい寒さだとしても、辛いとは思わない。 トクベツがここにある。 それだけで、熱が灯る。 「我慢できなかったら言えよ」 「わかってるよ」 前回、我慢しすぎて熱を出したのを反省しているのか、 悔し紛れにそっぽ向きながらも、朱里が素直に了承の意を示してきた。 その黒い髪をくりゃりとかきまぜれば、 「マジに大丈夫だって」と乱暴に払いのけてくる。 「よし。さっさと済ませて戻るぞ」 「了解」 気概のある奴は嫌いじゃない。 ましてや、それが朱里ならば。 「使徒星の住人たち」シリーズ moro*on presents
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