痛いくらいに、ぎゅっ


俺の誕生日が近くなると、ファラがおかしくなるのは毎年のこと。

「朱里!」

 突然、大声で俺の名を呼んで、家中俺を探し回ったり。
俺の姿が見つからないと、外まで飛び出してしまったり。
そう。文字通り、翼を拡げて飛び出していくのも珍しくない。

「どこ捜してんだよ。俺はここ」
「どこに行ってた!」

見つかった途端、ドンッとぶつかるように抱きつかれて、
ぎゅっと抱き締められるのも、こうも毎年のことともなるとさすがに俺も慣れたものだ。

「で? どうしたのさ。うたた寝してて寝ぼけてんの?」
「──夢を見た。大切なものを失くす夢」

この時期特有の、いつもの横柄なファラじゃないファラは、まるで迷子の子供のようで、
守ってあげなきゃいけないような庇護欲をくすぐられるからすごく不思議。

ファラの必死さがかわいくて。
それでいて、こんなに切ないのはなぜだろう。

「俺はいなくならないよ。ちゃんとここにいる」

一生大事にしたいもの。
絶対失くせないもの。
ずっとそばにあって当然なもの。

俺を抱きしめるファラの腕にさらに力がこめられるこの瞬間は、
ファラにとって大切なもののひとつなんだと、自分が誇らしく思える時間。

ああ、この一瞬が永遠となればいい。
そんな途方もないことを望んでしまうくらいに心が震えてしまうのも、
この時期の俺にとって毎年の不思議。

「ファラ?」
「ああ」

大切なものはここにあるんだと、
時々確かめたくなるファラの気持ちがよくわかる。
この瞬間だけは、自分の居場所が心の底から信じられて、ほっとする。

きっとこれはお互い様なんだろう。

「俺はここにいるよ」
「……当前だ」

だから、この瞬間だけは、絶対ファラに負けないように、
ぎゅっと力いっぱい抱きしめ返してやるんだ。

強く、強く。

痛いくらいに。


「使徒星の住人たち」シリーズ



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