「ジン・サガラってきみかい?」
「あン? あんた誰? 宗教勧誘と押し売りならお断わりだぜ?」
「私はオーウェン。オーウェン・レトマンだよ。きみをELGにスカウトしに来たんだ。
きみの卒論を読ませてもらったよ。すごかった。それでぜひペアを組みたいと思ってだね……」
「俺、知らないオジサンについてっちゃいけませんって『ママ』に言われてんだよなー」
「知ってるよ。ほかのELGの誘いもそう言って、きみ、断わってんだってね。
だから、きみとペアを組みたいんだって同僚に話したら、あいつはやめとけって言われたよ」
「わかってんじゃねーか。俺は自分を安売りしない主義なんだ」
「『ママ』に叱られるからかい?」
「っるせぇ。知らないオジサンと口をきいてはいけませんってのは常識じゃねえか」
「だったら、これから知り合いになればいい。何度でも通って、この顔を覚えてもらうまでだよ。
私は諦めが悪いんだ。特に気に入ったものは、ね」
「……なあ。俺がもし、母親の顔なんて薄覚えなんだって言ったら、あんた信じるかい?
声の感じとかもほとんど覚えちゃいねえのに、
『ここで待ってて。知らないおじさんについて行かないで』ってのがなぜか頭から離れねえんだ。
この年齢にもなってちゃんちゃらオカシイだろ?」
「おかしくなんかないよ。それにきみが信じてほしいなら、私はきみの言葉を信じるよ。
けどね、母親というものは顔や声音すら忘れようと、
存在感だけは綺麗に消えてしまうことはないと思うんだ。
きっとそれは誰もがいつまでも胸の奥底で求め続けてるもので。
だから、母親ってのはそれぞれの記憶の中でずっと生き続けてるもんなんだよ」
「ふうん……。そういうもんかね」
「そういうもんさ」
「オーウェンだっけ? あんた、いいヤツだな。でも俺は一筋縄じゃいかねえぜ?」
「それこそ望むところだね。ELGってのは意外とハードなんだ。それくらいの気合がないと勤まらないよ」
「そんならお手並み拝見だな。
俺もあんたの出方次第で『ママ』から卒業するか、これからゆっくり決めることにするわ」
「使徒星の住人たち」シリーズ 「きみが片翼」 十年前
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