タイトル All You Need Is Kill
シリーズ
著者 桜坂洋 イラスト 安倍吉俊
出版社 スーパーダッシュ文庫 初版 2004年12月30日
評価 ジャンル
  解説
 ぼくらはループする。このクソったれな恋と戦場を――
 敵弾が体を貫いた瞬間、キリヤ・ケイジは出撃前日に戻っていた。出撃。戦死。出撃。戦死。ループが百五十八回を数えたとき、煙たなびく戦場でひとりの女性と再会する……。ケイジは絶望的な戦況を覆し、まだ見ぬ明日へ脱出することができるのか!?
  書評
 本の帯にある「SF界の最高峰 神林長平氏大絶賛!」の文字。
 もちろん、こうしたうたい文句には誇張が混じるものだ。これを鵜呑みにして何度痛い目にあったことだろう。
 しかし、この作品に関しては、それは偽りないものだった。久しぶりに読み終えたとき、感動に心震えた作品である。
 作品の舞台は、ギタイと呼ばれる謎の生命体(?)によって人類が滅亡のふちに立たされた世界だ。黙々と大地を食らっては有害なものへと変えていき、それを邪魔しようとする人類を機械的に排除していく謎の侵略者ギタイ。この侵略を食い止めるべく機動ジャケットを装着して戦場を駆けるジャケット兵キリヤ・ケイジは、初陣となる戦場で一匹のギタイを道連れに戦死した。
 だが、次の瞬間、キリヤ・ケイジは出撃前日の朝に目覚めた。
 あのリアルな戦死体験は夢だったのか? 似ているがどこか異なる出撃前日を送った彼は、二度目の初陣でも戦死。
 そして、気づくとまたもや出撃前日の朝だった。
 何とかして、その奇妙なループから逃れようとするキリヤ・ケイジだったが、そのすべてが徒労に終わり、ついに5度目の出撃前日の朝を迎えた彼は、自分の手の甲にマジックで「5」と書き込むと、クソッたれな世界に対して戦いを決意した。
 そして、そのループが158回を数えたとき、ついに彼は戦場の女神と再会する。
 これが、この作品のおおまかなあらすじである。
 この作品の主人公キリヤ・ケイジは、初めはただの初年兵だ。戦場ではまともに戦うこともできなくて無様にのた打ち回り、戦死するだけ。ループに陥った当初も、何とか逃げ出そうと【敵前逃亡、果ては自暴自棄になって自殺】までする。しかし、戦いを決意してからは、彼がガラリと変わるのだ。
 その日に得た最高のものを次の日に持っていく。何度となく実戦と戦死を繰り返し、無限の時間の果てに最高の戦闘技術を手に入れてやる。
 そう決意したキリヤ・ケイジが、凄腕の軍曹に手ほどきを受け、新たな武器を手に入れ、しだいしだいに何十もの死線を潜り抜けた古参の初年兵へと変わっていく展開は、興奮とともに引き込まれるようにして話に没入してしまった。
 さらに158回目の初陣で、1回目の初陣で出会った戦場の女神リタ・ヴラタスキとの再会によって、訪れることのなかった明日への希望を見出す。しかし、それもまた絶望へと変わる怒涛の展開。
 そして、胸にせまるような切なさを感じられる、【ジャケットの色と残されたコーヒー】などのそれまで作中にちりばめられていた伏線をひとつにまとめた終わり方。読み終えた後に、思わず感動に震えるため息を漏らしたほどだ。
 もちろん、難点がないわけではない。ギタイの設定やループの解き方など、唐突でその結論にいたるまでの経緯がわからないなど不満もある。だが、あえてそうしたものは些細なものだったと言おう。少なくとも私は、そうした不満を吹き飛ばされるくらい感動した。
 SF好きならば、是非とも一度は目を通して欲しい作品だった。
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