「痛ってぇ」
ほこりのたつかわいたほそ道を、ドミニクは布のかばんを引きずるよ
うにして、歩いていました。
道の左右には、くきがふとく背の高い草がぎっしりと生え、ちょっと
でも風がふくたびにざわざわとゆれるのです。
ドミニクは、このものさみしい道が大きらいでした。
いつもなら、飛ぶようにかけぬけてしまうのですが、きょうはちょっ
とそういうわけにもいきません。
右耳の付け根には血がにじんでいました。背中には草のシミとドロが
あちこちにもようをつくり、左のひじと肩のあたりには赤い歯形がのこ
っています。そして鼻の下にはカピカピにかわいた鼻血がかわいてかた
まっていました。
ビリジバンとは、けっきょく勝負がつきませんでした。おたがいに蹴
ったりたたいたりひっかいたりで何がなんだかわからなくなったころ、
通りがったの学校の先生の「コラーッ」とさけぶ声で、みんなちりぢり
に逃げたからです。
「ちぇ、もうちょっとで勝てたのに」
半年くらい前までビリジバンは、ドミニクにまけずおとらずの悪たれ
子ネコでした。
ふたりともかけ足はおなじくらいはやく、木のぼりもおなじくらいす
ばやく、悪口もおなじくらい巧みで、しかも何かにつけて気の合うたの
もしい相棒だったのです。
またビリジバンにはちょっとしたはやしことばやいたずらに、みなを
ハッとするようなひらめきがあり、ドミニクはこの相棒が次に何をする
かを、いつもドキドキしながら待っていたのでした。