「何すんだよ、おまえのせいでこわれちまったじゃないかっ」

 ドミニクはこわれたヘルメス号をひろうと、鼻のあたまをまっ赤にし

てどなりつけました。

「ちがうよ。ドミニクが乱暴するからだろう」

 ビリジバンも、ふきげんそうな声でいいかえします。

 するとドミニクは、子ネコに似つかわしくないふてぶてしい笑いをう

かべて、いいました。

「ふん、おまえがぼけっとしているからさ。どうせまた、帰ってこない

とうちゃんのことでも考えてたんだろ。ビリジバンはパパっ子の甘った

れだからな」

「なんだと、もういっぺんいってみろ!」

 ビリジバンはさっきとは打って変わって、鳶色のひとみをピカピカ光

らせています。

「のぞむところさ。弱虫のビリジバンはとうちゃんをバイオリンに連れ

て行かれて、毎日泣いてばかりだ!」

 ビリジバンはいいかえすかわりに、ドミニクにいきおいよく頭つきを

おみまいしようとしました。

「へっ」

 ドミニクも負けてはいません。突き出された頭を両の前足でかかえて

ビリジバンのおなかにキックをくりだそうと後ろ足をなんども強くけり

だします。

 そうはさせじと、ビリジバンは大きく体をひねりました。

 バランスを崩したおれこんだふたりは、短い草のはえた丘の上から下

へ、組み合ったままごろごろと転がっておりていきます。

「やれやれーっ」

「やっちゃえーーっ」

 ほかのネコたちは、どちらを応援するでもなく、ただワーワーとさわ

ぎながら転がっていくふたりのあとを追いかけていくのでした。