ドミニクは、思わず目をこすっていました。
だれが見まちがえるでしょうか。
毎日のようにのぼった木に、毎日のように遊んだ友だちのすがたを、見まちが
えることなどできようもないのです。
ぽっかりと口を開けたまま、ドミニクは見つめていました。
いちばん低い、いちばん太い枝の上にビリジバンがすわっているのを。
「おーいっ、おおおーーーいっ!」
ドミニクは馬車の窓から身を乗り出して、めちゃくちゃに前足をふってビリジバ
ンを呼びました。
「おいこらぼうずっ、あぶないじゃないか。そんなに窓から身を乗り出すヤツがあ
るかっ」
御者が、おこってドミニクに怒鳴りつけました。
「だってだって、おじさん、あの木の上に友だちがいるんだよ。友だちが見送りに
きてくれたんだよ」
「わかったから、ちゃんと乗ってろ。落ちたらケガじゃあ、すまないかもしれない
んだぞっ」
泣き声のドミニクに、御者のおじさんもしぶしぶ丘の上の木を見あげます。
「ああ、いるなあ、誰か。でもここからじゃあ、声なんか届かないぞ。そうだな、
もうすぐお日さまが顔を出すから、前足でもふっていろ。ただしあんなに身を乗り
出したら、こんどこそひっぱたくからな」