(もうすぐ、あの丘だな)

 なだらかにのぼっていく草はらを前に、ドミニクはひとつ大きな息をはきました。

 白みはじめたばかりの空には、まだ星がいくつもまたたいていました。

 ドミニクは馬車の外を、じっと見つめています。

 毎日かけていた草はらはまだ暗く、かわりに湿り気に満ちたみどりのにおいが、

馬車の中にまでただよってきました。

 見なれたけしきも、いつもとはまるでちがうのです。

(とうとう、来てくれなかったな)

 なのにドミニクは、この町を出ていくのです。

 まるで小さいころ、おもしろ半分に引き裂いたクモの体の……そんなふうに心

がちぎれてしまいそうです。

 空はだいぶ、明るくなっていきました。

 なだらかに高くなる丘は、みじかく生やした草々を朝の光にキラキラ光らせ、

ゆっくりとその姿をあらわしはじめるのです。

 そしてあの、大きな木。

(あの、飛行機……)

 もしせめて、あの銀色のつばさがもう一度目の前にあらわれてくれたなら。

 いいえいいえ、あの時いっしょに飛行機をみた子猫が、もう一度目の前にあら

われてくれたなら。

 ドミニクはあの何度ものぼった丘の上の木をじっと見つめていました。

(……あれは!?)