いよいよ、ドミニクが音楽学校へ出発する日がきました。

 朝まだ暗いうちから、ぶちの子猫をのせた馬車は音楽学校のある街をめざし

ます。

「いいかい、しっかりがんばってくるんだよ」
 おかあさんはぎゅーっとドミニクの前足をにぎり、強いまなざしではげましまし

た。

「くれぐれも、先生のいうことをよく聞くんだぞ」

 サムラ兄さんが、心配そうにドミニクの頭をなでました。

「……」

 カカラド兄さんは、なにもいわずにドミニクのほっぺをりょうの前足ではさむと、

むにゅっと力をいれて顔をつつみました。

「なーんにも心配すること、ないさ」

 とうさんはそういって、ドミニクの頭を長い間だきかかえました。

「じゃあ、いってきます」

 馬車の外にむかって前足をふると、たくさんの友だちの声も聞こえてきました。

「がんばってねー」

「元気でねー」

 いつもの遊び仲間、ヘイグもライミーもみんな、大きく大きく前足をふっていま

す。

 ただひとり、ビリジバンだけがすがたをみせません。

 ドミニクはそれでも、注意深く窓の外をながめて、ビリジバンを待ちました。

 馬車はゆっくり走り出します。

 ゆっくりとゆっくりと砂ほこりのたつ道も、あのいやな草の道も、けっしていそ

がずにガラガラとすぎました。

 ドミニクがとなりにおいた目のあらい麻のふくろには、木製の飛行機のプロペ

ラだけがのぞいていました。

 馬車が小さくせわしなくゆれるので、銀色のプロペラはゆっくりとゆっくりと、

まわるのです。

(ビリジバン……)

 こんなときに、おかあさんでもおとうさんでもなく、ただ思われるのは大好きな

友だちのことばかりです。

(なんでおれのヒゲが、鳴ったりしたんだ)

 いくら思ってもしかたのないことが、するどいキリのように、ドミニクの胸をさす

のでした。