帰り道をゆっくりゆっくり歩きながら、ドミニクはおとうさんにいいました。
「今日わかったよ。神様なんて、ほんとうはこの世にいない」
それを聞くと、おとうさんは「カッカッカッ」とわらいました。
「じゃあおまえは、この先に何があっても、絶対に神様に祈ったりしないな。誓
えるな」
「もちろんさ」
「ほんとうに、ほんとうだな」
「ああ、そうさ。誓ってみせるさ」
「もしかあさんが、死ぬかもしれない、重い病気になったとしても?」
ドミニクは、びくんっと顔をあげて、おとうさんを見ました。
そして、思いました。
おとうさんが若いころ、ケンカでだれにも負けなかったのは、ほんとうのことだ
ろうと。
ドミニクは知っていました。
実はかなりイジワルな気持ちがなけりゃあ、ケンカが強くなったりはしないこ
とを。
「ああもう、わかったって。降参だって。もしかしたら神様は、まだすこしは木のう
ろなんかにいるかもね」
「はっはっはっ。神様っていうのはなあ、教会の管理人さんといっしょで、いるっ
ていったらいるもんで、いないっていっても実はいるのさ」
「えっ、教会の管理人さんって『失礼します』っていったなら、ほんとうにどっかへ
行くんじゃないの?」
「バカいえ。あんなにたくさん火をたいてるのに、ほんとうにいなくなったりした
ら、あっという間に大火事だ。いつどこの阿呆が燭台をたおすのか知れやしないっ
ていうのにさ」
ドミニクは、自分が燭台をたおそうとしたのがばれたかと思って、胸をどきど
きさせました。
「まあ、何にしてもおまえは、バイオリン弾きになれ。そうなるように今夜、神
がおまえを選んでくださったんだからな」
ドミニクはこくりと首をたてに動かすと、右に左にゆれて歩くおとうさんといっ
しょに、夜の道をしずかにかえってゆきました。