ドミニクはこの時、いろいろなことを知ってしまいました。
ビリジバンのおとうさんが、どんな気持ちで音楽学校へ行ったか。
ビリジバンがどんな思いで、それを見送ったのか。
それに、おとなになったら何でもできると思っていたのは、どうやらそうではな
さそうなこと。
悲しい思いもつらい思いもみんななくなると思っていたのも、なんだかひどいま
ちがいのようです。
ドミニクは、いままでこんなにさみしくなったことはありませんでした。
ろうそくをゆっくりと燭台にもどして、古くてごつごつした木のいすに、ひざをか
かえてすわりました。
そこへ、したり、したり、とゆっくりした足音が聞こえてきます。
「こんなところにいたか」
まっ白な毛並みに、水色と金色の目がピカピカと光っています。
おとうさんです。ドミニクは、びくっとしてたちあがりました。
「もうおそい。かあちゃんたちが、心配してる。かえれ」
おとうさんは、顔をくしゃくしゃにして笑いながら、ドミニクにいいました。
ドミニクはしばらくうつむいていましたが、やがて上目づかいにおどおどしなが
らいいました。
「いやだ、かえりたくない。おれはバイオンリン弾きになんか、なりたくないんだ。
とうちゃんたちといっしょに、みんなでソルティムガランに行くんだ」
おとうさんは、泣きっ面のような笑みをうかべて、ドミニクの頭をぐいぐいとな
でました。
「そうかそうか、うれしいな。でもダメだ。おまえはバイオリン弾きになるんだ」
「だって約束したじゃないか。とうちゃんと兄弟三匹で、ソルティムガランででっ
かい教会をつくるんだって。そのあと飛行機の作り方をみんなでおしえてもらう
んだって」
ドミニクはまあるくあいた目に、いっぱい涙をためて、おとうさんにいいつのり
ます。