黒いぶちの子ネコは、ふたたび炎をにらみつけています。
(そうだ。いっそのこと、ヒゲをなくしちまえばいいんだ!)
ドミニクは燃えているたくさんのろうそくの中から、なるべく長そうなのをえらん
で、ひとつとりました。
(かんたんだ。ちょこっとヒゲの根元を焼けば、それでいいんだから)
なるほどヒゲが生えてこなければ、バイオリンをつくることはできません。
だから、バイオリン弾きにもなれないでしょう。
(かんたんだよ。おれってやっぱり、頭いいな)
ヒゲがないと、走ったり飛び跳ねたりがかなりヘタになりますが、なあに、おと
うさんだって大工になっているのです。
それほどの損は、ないでしょう。
ドミニクは瞳のそばでふるえている炎を、じっと見つめました。
(かんたんじゃないか、ほら)
炎はなおも、ふるえています。
(かんたんだってば、さあ、ほら)
炎は、ぶるぶるふるえています
いいえ、ぶるぶるふるえているのは、炎じゃなくって、ドミニクの前足でした。
(……)
どうしてできないのか、不思議でした。
わけは、わかりません。だけど、どうしたってできないのです。
いつまでたってもろうそくの炎は、顔に近づけられないのです。
ドミニクは、ビリジバンの話を思い出しました。
「それは、ネコだからとしか、いいようがないんだよ」