ネコの世界の神様には、名前も形もありません。


 はるかむかしに神様からことばをさずかったネコが、神様のすがたを絵にかい

たり木や石や金物に彫ったりするのを、かたく禁止したからです。


 だからネコの世界の教会には神様の像も絵もなく、ただただたくさんのろうそ

くが心のように、昼も夜もとぎれることなく灯りつづけているのです。


 数え切れないほどのろうそくの炎は、ドミニクがそばによっても、しーんと灯っ

ています。

 無数に灯る炎をにらんで、ドミニクはひくくつぶやきました。

(なんで、おれのヒゲが鳴ったりするんだ)

 ほのおは一瞬ま横になびくと、またもとのようにしずかに燃えはじめます。


(どうして、ビリジバンのにしなかったんだよ)

 炎はこんどは、右に左にモヤモヤとゆれると、またもとのようにまっすぐにも

どりました。

(なんとかいえよ)

 こんどの炎は、まったくゆれませんでした。

 ドミニクはちょっとバカらしくなって、そなえつけの古くてごつい木のいすにこし

かけました。

 ヒゲが鳴ったのは、ビリジバンではなくやっぱりドミニクなのです。

 そのことはどんなに腹をたてても、変えることはできません。

 教会には、あいかわらず無数のほのおがゆれていました。

 ドミニクは立ちあがるとすたすたと歩いて、ろうそくの群れのすぐ前まで行きま

した。

(まったく、カカラド兄ちゃんがつくったんじゃなければ、燭台ごとぶち倒してやる

のに)