ドミニクのおとうさんは、まっしろな毛並みに、右目が金、左目がすんだ水色の
ひとみをしています。
そうして、若いころのケンカのなごりだとかで、左のうしろ足を引きずって、ゆっ
くりゆっくりからだを左右にゆらして歩いてくるのです。
「おまえな」
ドミニクのおとうさんは、ニコニコとわらっていました。
ドミニクの前では、おとうさんはいつもそうです。
でもドミニクにはわらっていても、おとうさんはとてもこわいネコに思えます。
「おまえはな、バイオリン弾きになれ」
胸がきゅーっとしぼんでいくように感じました。
「やだよ。だって約束したじゃないか。みんなでソルティムガランに渡って、教会
をつくるってさあ」
おとうさんは、ずっとニコニコわらっています。
「もうダメだ。おまえはヒゲが鳴ったから、バイオリン弾きになるんだ」
「どうしても?」
「どうしてもだ」
ドミニクはしばらく、ニコニコわらうおとうさんを見ていましたが、そのうち
「わーん」と泣きだして、食堂から走っていってしまいました。
職猫さんたちの残された食堂でも、小さなすすり泣きが聞こえています。
ビリジバンの弟たちが、両方の前足を目にあてて泣いているのです。
「そうかそうか、きみたちももう帰りたいよな」
サムラ兄さんは、ビリジバンの弟たちの頭をていねいになでました。
「じゃあおにいさんが、馬車にのせておうちまでおくってあげよう。ロバの馬車だ
けど、楽しいぞ。カンテラをつけて、明るくして行くからな」
そういってふたりの子猫をいすからおろすと、かかえこむようにして勝手口へと
歩かせました。
そのあとおおぜいのおとなのため息が聞こえて、みんなはさめてしまった夕ご
飯のつづきをもくもくと食べはじめました。