そのときドミニクはビリジバンのいったとおり、音が目に見えるようだと思いま
した。
バイオリンの音色は、まるですばしこいけもののように、食堂のテーブルの間
をすりぬけ、まどから飛び出ると、月明かりの草原をぬけて、あっというまに空
へ帰っていったのです。
それはほんの小さいころに絵本で見た「つばさのはえたくつ」をはく子猫そっ
くりでもありました。
「うそだろ?」
食堂中がしーんとしています。
ドミニクはとてもうれしかったのですが、同時にとてもいやな予感もしました。
そっと、そーっと、ふりかえります。
「へへっ、へへへへへ」
そこにはわらっているのだろう、ビリジバンがいました。
でもその顔は笑顔にはほど遠く、むしろこわがっているような、怒っているよ
うな、とてもおかしな顔でした。
ネコの顔がこんなにみにくくゆがむのを、ドミニクは見たことがありません。
「あ、あのなあ、これは」
ドミニクがゆっくりと前足をのばすと、ビリジバンははじかれたように、食堂の
いすをたおしてそとへ走りだしてしまいました。
「あ、あ、ああ……」
ドミニクは走り出すこともできず、その場にかたまってしまいました。
「おまえ、すごいじゃないか」
そこへ食堂に集まっている職猫さんたちをかきわけて、だれかがゆっくりと近
づいてきまた。
「とうちゃん!」
それはドミニクのおとうさんでした。