「そんなものなのかあ?」
口をとがらせたドミニクは、食べ終わった食器を重ねて、台所にかたづけにい
きました。
「でも、しかたないさ。聞けばわかるよ」
ビリジバンも、あとかたづけに食器を運びながら、ドミニクのあとについていき
ます。
「おれだったら、いくらヒゲが鳴ったからって、バイオリン弾きになんか絶対にな
らないね。だってバイオリン弾きになったら、とうちゃんやにいちゃんたちとの、
約束が果たせないものな」
「なんだい、その約束って」
「おれが一人前になったら、みんなでソルティムガランに渡って、世界一大きな
教会を建てるって約束さ」
ドミニクに続いて台所へ食器をさげたビリジバンは、小さくわらうといいました。
「そうか、うらやましいな。おれはソーセージ職猫になるって決めても、一日に一
度は必ず『もしかしたら』って思いながら、こうやってヒゲをこすってしまうんだ」
ビリジバンは左の前足でひげをそっとつまむと、右の前足のつめでしずかにこ
すってみました。
でも、音はかすかにも鳴りません。
「ひゃははっ、やめとけ。みみっちいぜ」
そういいつつもドミニクは、自分のヒゲをつまんで、ビリジバンと同じようにつ
めでしずかにこすってみました。
るーーるるるるるるっ