「もちろん、うさぎソーセージ職猫さ。あたりまえじゃないか」

 ビリジバンは何をいまさら、という顔でいいました。もうふたりとビ

リジバンの弟たちは、ドミニクの家の近くのさみしい一本道まできてい

ます。背の高い草が、黒っぽいキジ模様の子猫のうしろでさわさわとな

りました。

「え、でも、おまえのとうちゃん、もう家にいないじゃないか」

「ああそうさ。今は一人前のバイオリン弾きじゃないから、家には帰っ

てこれないんだ。でも、音楽会に出られるくらいになったら、ちゃんと

お休みがもらえるって。そうしたらすぐに飛んで帰ってソーセージの作

り方を教えてくれるってさ。ほんとうはおとなになってからがいいんだ

けど、どうちゃんの準備ができたらすぐにはじめるって」

 ドミニクは鼻をすこし赤くしているビリジバンに、ほっとしました。

「ああよかった。おれさあ、まじめに心配で夜も眠れなかったんだよ」

 しかめっ面でドミニクもうつむきます。

「ドミニク……」

 ビリジバンはむねの奥がきゅんといたくなりました。

「だってもうあのうさぎソーセージが、一生食べられないと思うとさ、

悲しくて悲しくて」

「ドミニク、おまえっていうやつは……」

 ビリジバンはいっときぽかんとした顔をすると、そのあとドッとわら

いました。

「なんだよ、わらいごとじゃないぜ。おれなんかうさぎソーセージが食

べられるの、祭りの日の夕飯だけだぜ。それもシチューにこんな肉球ぐ

らい浮いてるだけ。あんなちょっとばかりを、どれほど楽しみにしてい

ることか」

 ドミニクはビリジバンにむかって、わざわざ右の前足をぐいと出し、

肉球を見せながらいいつのっています。

「おれだって、そんなもんだよ」

「そうかなあ。ほんとはバクバク食べているんだろう。ちょっと失敗し

たヤツとかさあ」

「それがとうちゃんまず失敗しないんだよ。それにほんのたまにちょっ

とだけ失敗したやつは、教会とか孤児院とかにタダであげちゃうし」

「なんだ、そうなのか。ああ一度でいいから思うぞんぶん、うさぎソー

セージを食べてみたいよ。ビリジバンさあ、おまえ早く作り方習って、

いっぱい練習してそれで、ちょっと失敗したのはぜんぶおれにくれ」

「ああもう、あきれたやつだな。だめだね、ちゃんと買いに来なけりゃ」

「ちぇっ、ケチ」

 ビリジバンもビリジバンの弟たちもドミニクのがっかり顔に、長い間

大きな声で笑っていました。背中で草たちもさらさら鳴ります。

 そうして笑い声がとぎれるころ、四猫のこどもたちはたくさんのうさ

ぎの毛皮をもって、ドミニクの家に帰りついたのでした。