広い広い作業場でした。
たくさんの古びた作業机がきちんとならべられ、見ただけではどう使
うのか見当もつかない、入り組んだパイプやまるい刃物のついた大きな
機械が、いくつもすえられています。
新しい木のよいにおいが、しっかり掃除された床の、それでもすき間
に残っている細かい木クズからぷうんと香ってきます。
みがきあげられた機械から、油と金物のにおいもしました。
そんな部屋のすみの小さなつくえで、白地に黒いぶちの毛並みの子ネ
コがひとり、背中を丸めてなにやらけんめいにつくっています。
「もう、えのぐもニカワもちゃんと乾いてる。たのむから、きれいには
がれてくれよ」
ぶちの子ネコは前足の小さな黒いまめにピンセットを器用にはさみ、
銀色の形をしたなめらかなものから、そっと丸く何かをはがしました。
大きな窓からはのぼりはじめた朝日がまぶしいほどふりそそぎ、子
ネコのまわりにただようほこりのつぶを、きらきらとかがやかせていま
す。
「それにしてもすごかったよな。あの、ほんものの飛行機」
子ネコは、ふうっとひといきいれると、窓のそとの空をあおぎみまし
た。
あの日、いつもの丘の上で木のぼりをしていると、ものすごい音とと
もに空を切りさいてきた鉄のつばさ。
さいしょは羽虫よりも小さかったのに、みるみる大きくなって、ひ
るがえりながらおりてきた「ヘルメス号」。
降り立ったのは、去年大きな船がとつぜん港につくまでだれも知らな
かった、ソルティムガランという遠い国の飛行士でした。
「かっこよかったよな。背が高くて、サフラン色の毛並みの毛先だけが
こう、ほんのすこし黒っぽくてさ」
子ネコはにまっとわらうと、もう一度ピンセットをつかって、またそ
っと銀色の何かをはがしにかかりました。
「できた!」