それから月は七回、消えてはまたまんまるになりました。

 シニファンはそのあいだ四回もの演奏会に出演し、音楽学校は小さな

子ネコもすこしずつ入学させるようになりました。

 そんなある日の昼、シニファンはある練習室の前で、ぴたりと足を止

めました。

 おそらく子ネコの演奏でしょう。まだ曲をなぞるだけのたどたどしい

弾き方です。

 でもシニファンはそのたどたどしさのなかに、手のこんだいたずらを

しかけるような、いきいきとしたぬけ目なさを感じました。

(いったい、どんな子が弾いているのかしら)

 ほんとうはやってはいけないことなのですが、シニファンは練習室の

窓をそっと細くあけて、なかをのぞいてみました。

 そこでは白地に黒のぶちの子ネコが、自分のうでまえのたどたどしさ

にいらだつように、すこし目をつりあげぎみにして、先生の前で練習を

つづけていました。

「ああくそっ、ちっともうまくなんねえ」

 演奏が終わるとぶちネコは楽譜たてをかるくけって、うさばらしをし

ています。

「ドミニク、乱暴はやめなさい」

 シニファンはおもわず、ぷっと吹き出しました。

「だれだよっ」

 ぶちの子ネコはその小さな笑いを聞きのがさず、窓の方をらみつけ

ました。

 シニファンはあわてて窓の下へ首をすくめます。教室のなかからは

「ちっ」という舌打ちの音が聞こえてきました。

「ドミニク、気をちらさないように」

「はあい」

(あぶないあぶない、なんて耳のいい子だろう)

 シニファンは笑いをこらえながら、窓の下で体をおりまげ練習室をは

なれます。

(おもしろい子が入ってきたな。あんな子に会うのはひさしぶりだ)

 シニファンはみょうにうれしい気持ちで、お昼ごはんを食べに食堂へ

むかいました。