「ありがとう」

 ミルドラ校長先生は演奏を終えると首をかしげてほほえみ、そのまま

機械の修理用の台にこしかけました。

「この学校にあなたをむかえて一年、バイオリンで教えてあげられるこ

とは、ほんのわずかになりました。でもね、ネコとして教えてあげられ

ることは、まだまだ山ほどのこっています」

 ミルドラ校長先生は手まねきして、シニファンをとなりにすわらせま

した。

「あのねシニファン、ネコはだれでもかならず、神様からひとつだけ質

問をいただくんです。それはどのネコもみんなちがうのですが、ときど

きひどく残酷なものもあって、みじかなネコをとても苦しめたり、と

きには死においやったりします」

 シニファンは校長先生のことばを聞いて、心底びっくりしました。

「でもね、それでも、神様の質問にはていねいに答えなければいけませ

ん。いそがなくてもいいのです。一生かかっても、しっかりと答えさえ

すればよいのですよ。正しいとか間違っているとか、そんなかんたんな

答えではなくてね」

 シニファンはいつのまにか、つぅっと涙をこぼしていました。

 ミルドラ校長先生はそんなシニファンの頭をやさしくなでています。

「あなたの演奏はとてもすばらしいけれど、どこかに小さな黒い焼け焦

げみたいなものを感じます。でもそれを恥じないで。それはあなたが神

様からいただいた、大切な質問なのですから」

 ミルドラ校長先生は、立ち上がるとシニファンの手をとりました。

「今夜はおそいから、もうおやすみなさい」

 シニファンはこっくりとうなずくと、ミルドラ校長先生に手をひかれ

バイオリンをかかえて、時計台の長い長いらせん階段をしずかに

おりていきました。