(けっこうせまいんだな)
時計台の機械室に行くらせん階段を上がりながら、シニファン心のな
かでつぶやきました。
階段がこんなにせまいとは、考えていませんでした。これでは壁にひ
じがぶつかって、バイオリンが弾きません。
せめてどこかに踊り場がないかとさがしているうち、もう機械室の前
にでてしまいました。
ドアの前はすこしだけ広くなっていますが、それでもじゅうぶんとは
いえません。
(どうしよう。機械室はカギがかかているだろうし)
そう思いながらも、シニファンはドアのノブに手をかけました。
ぎいっ。
ドアはかすかな音をたてて、開きました。
中ではシニファンの背たけの倍もあるような木の歯車が、ごとんごと
んと、重たそうに回っています。
小さな窓からは月の光が柱となって、手をのべるように差しこんでい
ました。
(だれかこの部屋のドアを、開けておいてくれたのかしら)
シニファンはさっそく中に入ると、バイオリンをかまえました。
月の光をうけたバイオリンからは、つややかな音色がほとばしります。
(ぼくは――)
シニファンは何かを思おうとしましたが、それはたちまちバイオリン
にかきけされてしまいました。歯車の低くきしむ音だけが、見守るよう
に流れていきます。
やがてバイオリンを弾き終わったシニファンには、心地よいつかれが
やってきました。曲が終わるとやはり影はニッと笑ったのです
が、今夜はそれもあまり気になりません。ここの部屋には不思議な力が
あるようだと、シニファンは思いました。
「やっぱり来ましたね」
ふいに機械室のとびらが開くと、シニファンの前にふかふかの毛なみ
があらわれました。