いよいよシニファンの出番です。

 シニファンは舞台へ歩いていくときはんたいがわのそでで、演奏を終

えたルーニャとドミニクが、楽しそうに話しているのをちらっとみかけ

ました。

 よかったなと思うのと同時に、心の中にちりっと、あついようないた

いような感じをおぼえます。

 いままでそんな気持ちにはなったことはなかったので、シニファンは

大いにとまどいました。

(ぼくは、どうしたんだろう)

 しかしもう出番です。よけいなことを考えているひまは、ありません。

 たくさんのネコの顔が、こちらをむいています。

 そして、空にはまるい月がこうこうと照っています。

 つめたい夜のかぜが、シニファンの毛並みをふきはらっていきました。

 つめを、バイオリンの弦(いと)にかけます。

 曲がはじまりました。音は音をよびつらなり、気まぐれにうずをまき

ながら、会場をながれていきます。

 シニファンはバイオリンを弾きながら、ふとだれかに呼ばれるように

そっとうす目を開けました。

 すると自分の体が、月をとりかこむかさににたおぼろげな光に、す

っぽりとつつみここまれているのを見ました。

(ああ、パルフォさんがきているんだ。そして、きているのはパルフォ

さんだけではない)

 いつものように、おかあさんを感じることもできました。

 それだけでなくルーニャもドミニクもミルドラ校長先生も、ほかの生

徒たちも、会場を埋めつくしているたくさんのお客さんのひとりづつも

感じることができたのです。

 シニファンのむねに力づよいものとは別に、熱いほどあたたかなもの

がこんこんとわきあがっていきます。

(そうなんだ。バイオリンはむすびつける。生きているネコもそうでな

いネコも、ネコでないものも、すべてを)

 それはことばではいいつくせないほど、しあわせなことでした。

 演奏を終えたシニファンを、喝采がつつみこみます。