いよいよ演奏会の当日です。

 いつもならどうということもないシニファンですが、今夜は胸さわぎ

がたえません。

(ルーニャたちは、うまく弾けるかしら)

 シニファンはどきどきするわけをルーニャたちのせいだと思おうとし

ていましたが、それだけではないことを、じぶんでもうすうす知ってい

ました。

 もうシニファンは、すこしまえまでとはちがうのです。

 からだにも心にもつよい力がグルグルとうずまいていて、ほおってお

くとそれが口や頭のてっぺんやつめの先からあふれだしそうなのです。

 とてもすわっていることなど、できません。

 むねの上に前足をおいて、シニファンは舞台のそでからそっとルーニ

ャとドミニクをみまもりました。

 聞こえてくるのは、あの練習曲です。

 シニファンは目をとじて、演奏に聞き入っていました。

 そして感じます。

 ほつれた糸の先のようなふたつの音のが、それぞれゆっくりとねじれ

て一本になり、おたがいにすこしづつさぐり合いながら、よりそい、輪

をつくって、かたくむすばり合うようすを。

(よかったね。ルーニャ、ドミニク)

 シニファンは目をあけて舞台に立っているふたりの方に顔をむけます。

 演奏はおわりました。シニファンはバイオリンをおいて、せいいっぱ

いのはくしゅをしました。

 会場のネコもそうしています。

 おじぎをしてからだをおこしたルーニャとドミニクは、毛並みの先か

らきらきらする汗の玉を、あたり一面ふりまいていました。