おどろいたのは、シニファンのほうです。
開いたドアの前には、バイオリンを持ったルーニャがぺたりとすわり
こんで、今夜の月のように目を大きく見開いていました。
(やれやれ)
シニファンは急におかしくなりました。
そして今夜、バイオリンを持ってルーニャがここへ来たことを、た
いへんうれしく思いました。
(ぼくの思っていることは、伝わるかしら)
すこしためらいましたが、かすかに笑ったシニファンはルーニャの弾
く課題曲を、ゆっくりとした調子で弾きはじめました。
おどろいていたルーニャも立ち上がり、シニファンのあとについてバ
イオリンを弾きはじめます。
ややかたい音でしたが、ルーニャはいつもよりずっとなめらかに演奏
しています。
それよりもルーニャの楽しそうな顔が、シニファンをなごませました。
いっしょに弾いていると、ルーニャの心も伝わってくるように思われ
ます。
(そうだね。感じたことをそのままあらわすのは、ときどきとってもむ
ずかしい)
曲を弾きおわると、ルーニャはてれてに「えへへ」と笑いました。
シニファンはおなじように笑ってから、もう一度バイオリンをかまえ
ます。
ルーニャももう一度、バイオリンをあごにのせます。
ふたりは時間のたつのもわすれて、ながいながいあいだ、バイオリン
を弾きつづけていました。