(あれは、夢の中にいた「ぼく」だ)

 ルーニャのうしろすがたは毛並みこそちがえ、夢の中で馬車に轢(ひ)

かれたおかあさんを見る自分のうしろすがたに、たたずまいがそっくり

でした。

 シニファンの目の中で、今見えるルーニャのとらもようの背中と、夢

で見た自分の黒いつやのある背中が、ものすごい早さでぱちぱちと入れ

替わります。

(こんなことって――)

 パルフォじいさんを乗せた馬車は、軽いそうな音をたてて学校を去っ

ていきました。

 シニファンは目を押えながら、ふらふらと門のそばをはなれます。

(うそだ、そんなのうそだよ)

 瞳を閉じてもなおシニファンの目の中では、さっきのルーニャの背中

と夢の中の自分の背中とがくりかえし早変わりを続けていました。

(だって、それじゃあ、ぼくもかわいそうなことになってしまうじゃな

いか)

 朦朧とした頭をかかえ、シニファンは学校の廊下を歩いていきます。

 右に左によろよろと歩き続けたシニファンは、しかしとうとうがっく

りとひざを落としました。

(ちがう、ちがうよ、だってかわいそうなのは、ぼくじゃなくって、お

かあさんの方だもの。ぼくなんかよりおかあさんの方が、ずっとずっと

かわいそうなんだもの)

 でもシニファンは今ごろになって急に、おかあさんの亡くなったこと

が、さみしくて悲しくてたまらなくなりました。

 そのまま廊下にぺたりとすわりこみます。

「きみ、どうかしたのかい」

 ちょうど通りかかった若いオスの先生が、シニファンの肩にそっと手

をふれました。

 そのときシニファンなかで、何かがぷちんっとはじけました。

「う、う、う、うわーーん、あーーん、あーーん、わあーん、わあーん」

 廊下のまんなかで黒い子ネコは、大きな声をはりあげて泣き出しまし

た。