ふりかえるとルーニャは、にこにこしながら立っています。

 シニファンは悲しい気持ちになりましたが、それでも気をとりなおし

て部屋へ入りました。

 つくえの上をさしてバッグをおいてもらうと、こんどは食堂を案内し

にいきます。

 食堂はいつもどおりネコたちのおしゃべりが、虫の羽音のようにさざ

めいていました。

 ルーニャはトレイにお昼ごはんをとるシニファンの手つきを、手品を

見るようにながめています。

 テーブルにならぶと、ルーニャは元気よく食べはじめました。

(ほんとうにかわいらしいなあ)

 しかし音楽学校にまだなれずにあがっているのか、ルーニャのスプー

ンをつかうようすは、どこかぎこちないものがあります。

 それだけでなくよくみると、せなかや肩も力が入ってかたくなってい

ました。なぜだかとてもどきどきしているようです。

 そんなルーニャの横にいると、シニファンまで胸がどきどきしてきま

した。

(こんなときどうしたらいいんだろう)

 先にお昼ごはんを食べ終わってしまうと、シニファンの胸のどきどき

はいっそうつよくなります。

 とうとうがまんできなくなり、シニファンは立ち上がると手をふって

テーブルをあとにしてしまいました。

 手をふりかえすルーニャは、やはりすこしさみしそうです。

(かわいそうなことをしてしまったかしら?)

 そっとふりかえると、ルーニャはやはりさみしそうに下をむいていま

す。

(やっぱり)

 それでももう、テーブルにもどるのはとてもおかしなことのように思

えました。

 つらいような、みょうにくすぐったいような落ち着かない心持ちでし

たが、しかたなく食堂をあとにします。

 シニファンはため息をつくと、練習のためのバイオリンをとりに、ま

た学校の長いろうかをすたすたと歩いていきました。