広い食堂はネコたちのおしゃべりで、ざわざわとしていました。
シニファンは食堂に入ると、いつもかるいめまいがします。しかしそ
れでも、ほうっとかるいため息をつくと、トレイをもっていつものよう
におかずをとりはじめました。
席につくと、食堂にひびいているさざめきにゆられながら、ごはんを
食べはじめます。
「となりにすわっても、いいかな」
シニファンはかるくえしゃくをして、その声に答えました。
すわったのは、まっ白なおじいさんネコです。
「わしはパルフォ。どうぞよろしく」
シニファンは握手をすると、きょろきょろして、自分の名前を書くも
のをさがそうとしました。
「シニファン、ではなかったかな?」
パルフォじいさんは、にこにこしながらみつめています。
シニファンは、ひだまりの干し草にすわっているように心地よくなっ
て、大きくうなずきました。
「どうかこれからよろしく。わしはこのとおりのじいさんだが、バイオ
リン弾きとしてはまだ赤ちゃんでな。なにせおととい学校に入ったばか
りで、肝心のバイオリンもさずかっていない」
パルフォじいさんは年老いて少なくなりはじめたほっぺたの毛並みを
しごきながら、細い目をもっと細くして楽しそうに話しています。
「だがこれからバイオリンをさずかる、その奇跡のようなみわざを見ら
れるなんてなあ。長生きしたかいがあったものだ」
シニファンはかるく首をかしげて、パルフォの話を聞いていました。
うわさには聞いていましたが、シニファンはバイオリンをさずかる儀
式というものを見たことがありません。
はじめてヒゲが鳴った夜、気がついたときにはもう、目の前にバイオ
リンがあったのですから。